北朝鮮のスーパーに並ぶ日本製品… 経済制裁が「骨抜き」の実態
北に協力するパートナー
17年12月10日、韓国政府は北朝鮮に対する追加の独自制裁を発表した。
制裁対象の一人は、ベラルーシ駐在の「キム・スグァン」。情報システムの専門家だ。かつてイタリアに本部のある国連機関「世界食糧計画(WFP)」に勤務していた。
だが、それは表の顔にすぎない。彼の正体は北朝鮮の工作機関「偵察総局」の要員であり、真の任務は、本国から欧州に来訪する工作員への支援だった。通信暗号化技術を駆使しつつ、通信やロジスティックスなどの面で工作員を支援する一方、欧州域内での北朝鮮のマネーロンダリング・ネットワーク構築という任務も担っていたのである。
14年2月にフランス内務省がキムを「偵察総局の要員」として制裁対象に指定したことで、偵察総局の作戦は打ち砕かれた。以来、私は、専門家パネルの同僚とともに彼の行方を追っていたのだが、今回の韓国政府の発表により、彼がベラルーシに拠点を移していた事実がようやく判明した。我々専門家パネルが国連の公式文書で、キムについて詳細に報告していたにもかかわらず、ベラルーシは彼の入国を認めていたことになる。16年9月には同国に北朝鮮大使館が開設されている。大使館は北朝鮮の非合法活動の拠点だ。そして、前記の通りベラルーシにはMZKTの本社がある。
そもそも北朝鮮は、国際的に「孤立」などしていないのだ。国外には様々な理由から北に協力するパートナーが存在する。そして、それは日本も例外ではない。
「北朝鮮関係者の巣窟」
17年10月31日、私はフジテレビで取材を受けていた。平壌に派遣された取材班が市内のスーパーの様子を撮影したということで、目の前のモニターには、商品の陳列棚が映し出されている。冒頭でも述べたが、日本酒、醤油、ジュース、食用油……日本製の商品が大量に並んでいる。国連制裁のみならず独自制裁も講じて「最大限の圧力」をかけている国、他ならぬ日本の禁輸品を、北朝鮮は難なく調達していたのである。平壌市民の間でも日本製品は人気なのだ。
取材班は、いくつかの商品のラベルをクローズアップしながら撮影。製造場所と製造年月日が目に飛び込んできた。驚いたことに、つい最近、日本国内で製造された商品が多い。日本酒は神戸市で、醤油は岩手県で製造されていた。いずれも9月初旬から中旬にかけて製造されたばかりのものだ。9月11日には、「史上最強」とされる国連安保理制裁決議2375号が採択されたというのにである。国際的な制裁強化の流れをあざ笑うかのような光景だ。
これは決して特殊な事例ではない。同年7月にも、英国の北朝鮮専門サイト「NK Pro」が、平壌の高級デパートで、欧米や日本の各種ブランド品が大量に販売されている様子を報道していた。高価な化粧品、アルコール飲料、時計、靴、楽器、液晶テレビなど、高級ブランド品が勢ぞろいしている。こうした光景が指し示しているのは、日本国内の「協力者」の存在である。
おそらく日本国内の「北方業者」(かつて北朝鮮との交易を主なビジネスとしていた業者)が買い集めた商品を、東南アジアか中国にある北朝鮮のフロント企業を通じて平壌に流したのだろう。さもなくば、岩手県産の醤油など、北朝鮮が知るはずもなかろう。禁輸品の迂回ルートでの密輸は、彼らが制裁の網の目を潜り抜けるための常套手段のひとつである。モニターに映し出されているのは、「抜け穴」だらけで実効性を欠いた見せかけの制裁の帰結ともいうべきか。
「日本は北朝鮮関係者の巣窟だ」
アメリカ中央情報局(CIA)の分析官だった同僚の言葉がよみがえってくる。
その抜け穴は霞が関でもつくられていた。誤解のないように言っておくが、私の知る官僚の皆さんは真面目で、実務能力も高い。しかし、縦割りの組織が構造的に抜け穴を生み出してきたのも事実である。
(下)へつづく
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