「笑いとタブー」「笑いと差別」をどう考えるか 障害者芸人ホーキング青山はこう考える(1)

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絶賛された漫才と批判された浜ちゃん

 年末年始、「笑いとタブー」あるいは「笑いと差別」という問題がクローズアップされる出来事が続いた。

「タブーに挑んだ」と一部で喝采を浴びたのは、ウーマンラッシュアワー。「THE MANZAI」で披露した漫才が、原発や米軍基地、日米関係といったことをネタに織り込んだことが賛否両論を巻き起こしたのである。

 一方で、人種問題という“タブー”に関連して、一部で批判を浴びたのが、大晦日の「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」。ダウンタウンの浜ちゃんこと浜田雅功が、エディ・マーフィーを模して顔を黒塗りにしたことについて、「欧米では考えられない」といった批判がネットなどで寄せられたのである。もっとも、この件については、「差別と受け取るほうがおかしい」と浜ちゃんを擁護する声も強い。

 こうした出来事をどう見ればいいか。

 笑いとタブー、差別との関係について長年向き合ってきたのが、身体障害者芸人のホーキング青山さんだ。車イスのお笑い芸人としてデビューしたのは1994年。以来、この問題はつねにホーキングさんの側にあったと言ってもいいだろう。2つの「騒動」について、彼の見解を聞いてみた。

「ウーマンラッシュアワーのお二人の漫才については、タブーを破ったとかそんな大げさなものではないんじゃないの、と私は思いました。爆笑問題さんだって政治に関連したネタはいつもやっているわけで、今回『すごい』とか言っている人は、普段、お笑いを見ている人なんだろうか、という気もします。

 お笑いなんだから、要は笑えるか笑えないかで評価すればいいだけのことなんじゃないでしょうか。

 私自身は、あの漫才を見て、どちらかというと懐かしい感じがしてしまったというのが正直なところです。昔のコロムビア・トップ・ライトさんの漫才とか立川談志さんなんか高座でもっときついこといってたし、桂歌丸さんだって『笑点』の大喜利で『政治家は私たち庶民のことなんかわかってないですからね』という感じの風刺めいたことを仰っていたし、そういうのに近いと思いました。だから、タブーうんぬんと言われてもピンと来なかったんです」

見世物小屋へようこそ

 ホーキングさんがデビューしたころ、「障害者と笑い」というマッチングはそれこそタブーに近いものだった。そんな中、下ネタも差別ネタも平気で話していた彼は、かなり異質な存在だったようだ。舞台に出た時のツカミの一言は「見世物小屋へようこそ」だったというのだから、強烈だ。もちろん、そんな漫談はテレビでは放送されない。彼が登場するのは演芸番組ではなく、ドキュメンタリー番組の方が主だった。

 その頃に比べれば、「障害者と笑い」もそうおかしな取り合わせではなくなってきたように見えるかもしれない。障害者やマイノリティを主役としたNHK-Eテレの「バリバラ」のような番組が寄与している面もあるのだろう。同番組もまた「タブーを破った」と肯定的に評価されることが多い。

 しかし、ホーキング氏はこうした「タブーを破った」ことを過大に評価する風潮そのものに対して複雑な思いを抱いているようだ。新著『考える障害者』では、その理由をこう綴っている。

「『バリバラ』は、障害者の思いを改めて世間(の一部)に届けたという意味で一定の意義はあるのだろうが、一方でそういう番組が作られ、『刺激的』『タブーを破った』と評価される状況にはどうしても違和感を抱いてしまう。だって、もうそんなタブー、ずっと私は破ってきたし、他にもそういう人は数多くいた。それでも常に、障害者を扱うことそのものが『タブーを破った』扱いになっている。どこか変なのだ。

 何度も何度も、私やいろいろな人が『タブー』を破る。そのたびに、世間も『なるほど』と言う。

 それからしばらくすると、また何もなかったかのように『タブー』が破られる。

 あれ、その件、この前も話したよな? こっちはそう思うのだけれども、世間は気にせずに『タブーを破った』と評価する。そんな状況がずっと続いているのではないか。

『バリバラ』がスタートしたのは、2012年だ。それからずーっとタブーを破っているのか。タブーって一体何枚あるのかね、と嫌味の一つも言いたくなるではないか」

 政治ネタ、障害者ネタ、人種ネタが常に「タブー」であるという前提に問題はないのだろうか。規制の枠をガチガチに固めてしまうことが、ちょっとでもはみ出たものを必要以上に賞賛すること、あるいは必要以上に糾弾することにつながるのかもしれない。

「ハマダ・マーフィー」についてのホーキング氏の見解は次回に紹介しよう。

デイリー新潮編集部

2018年1月15日掲載

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