「呼吸器外し殺人」元看護助手を自白させた「色恋営業」の取調べ室

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 再審開始決定で十余年前の事件に再び光が当たった。殺人犯をでっち上げたのなら滋賀県警、万死に値する。しかも、それが“色恋営業”の所産だとしたら……。

 2003年5月、滋賀県の病院で末期患者が亡くなった。当直の看護師は「人工呼吸器のチューブが外れていた」と報告。呼吸器はチューブが外れたらアラームが鳴るため、県警は看護師が“居眠りしてアラームを聞き逃した”という業務上過失致死の疑いで捜査を始めた。だが、目覚まし時計並みの音量のアラームを聞いた者は皆無。“呼吸器故障なし”との鑑定が出た04年5月、所轄に代わり県警本部捜査一課が捜査に乗り出した。冤罪の“主犯”というべき刑事(45)が加わるのもここからである。

 刑事は、同じ当直だった看護助手の聴取を始めた。西山美香さん(37)である。

「被害者の写真を並べた机に彼女の頭を押し付け“これを見ても何も感じんのか!”と罵声を浴びせたといいます」(地元紙記者)

 堪らず西山さんは“アラームを聞いた”と嘘をつく。

「すると刑事は一転して優しくなった。彼に好意を抱いた彼女は、取調べで刑事の手を握ったことも。そして、刑事に会うため、呼ばれてもいないのに毎日のように自ら署に通い詰めるようになったのです」(再審を担当する井戸謙一弁護士)

 まるでホストクラブだ。

 一方、看護師の方は、刑事の厳しい聴取により精神を病んでしまっていた。

「それを伝え聞いた西山さんは、自分のせいという申し訳なさと、刑事の気を惹きたい気持ちが相俟って口走ってしまいました」(同)

 私がチューブを外しました――火のないところに“殺人事件”という煙が立った瞬間である。

 誰も気づかなかった殺人事件を立件して名を上げた刑事は、本来は許されない起訴後の捜査を、余罪調査と称して続け、西山さんとも接見を重ねた。筆記用具を持っていき、

〈裁判で否認してもそれは私の本心ではありません〉

 という上申書まで書かせている。弁護士接見後に発言を翻す度、刑事に言いくるめられた彼女は筆を執らされた。かくて彼女が認(したた)めた文書は94通に及んだ。

「拘置所への移管時、彼女は“離れたくない”と刑事に抱きついた。刑事もそれを拒否するでなく、肩に手を回し“頑張れよ”と応じたそうです」(同)

 裁判では弁護側が無罪を主張したが、懲役12年の判決が確定。17年8月、西山さんは刑期満了で出所した。

 蛇足だがこの刑事は05年、容疑者に暴行を加えたとして特別公務員暴行陵虐罪で書類送検された。しかも容疑者は無実で誤認逮捕だった。だがこの件は不起訴に終わり、彼は現在、県警本部警部に昇進している。

「17年3月にも、件(くだん)の刑事は、近江八幡で起きた殺人事件で、否認していた容疑者を自白させています」(大手紙司法記者)

 このたび弁護団は被害者の死が自然死だとする新証拠を提出し、再審が認められた。無罪判決は目の前だ。

週刊新潮 2018年1月4日・11日号掲載

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