日本人初!「無補給単独」で南極点に到達した荻田泰永氏が語る“私の冒険家人生”
大火傷、ホッキョクグマ
――以降は毎年のように北極へ。「最初はカルガモの子のように、親の後ろにくっついて歩いていたのに、“一人で歩けている”という成長を感じる日々でした」と言う荻田氏だが、危険な目にも、もちろん遭遇した。
「07年にレゾリュートから南のケンブリッジベイという村まで、1000キロを歩こうとしました。順調に進んでいましたが、25日目くらいに、火災を起こしてしまった。狭いテントの中で火をつけて、そこにガソリンをこぼして……。テントが燃えて、両手に大やけどを負って、顔にも火をかぶった。『ああ、死んだかな』って思ったけれど、大急ぎで外に飛び出て、スコップで雪を火にかけました。テントが半分くらい燃えたところでようやく火が消えたんですけれど、その時にはもう手が何だかごわごわしていました。ゴム手袋をしているような感じで、『しまった』と。半径500キロ圏内には人がいなくて、そんな状況で手もテントも使えない。幸い通信機器は無事でしたから、レゾリュートに救助飛行機を呼びました。
飛行機を待っている間の懸念は、ホッキョクグマでした。この年は25日間で12回も熊に出会うくらい、遭遇率が高かった。この時も燃える匂いに気づいて、熊が寄ってきてしまったんです。
基本的にホッキョクグマは、アザラシを探しています。『なんかいるな、けどいいや。アザラシ、アザラシ』という熊は、私には興味がないので、50メートルくらいの距離ですれ違ったりもしました。距離があればカメラで写真を撮ったりしますが、そうでなければ追い返す用意をします。若い熊は経験が浅いので、銃を1発撃てば、簡単に追い払える。身体の大きいのは怖いものがないから、何発撃ってもビビらないヤツもいます。火事の時の熊は、執着心の強いヤツでした。頭を低くして、じりじり寄ってくるのです。猫がネズミを狙う時に地面に顔を近づけますよね。そういう体勢です。
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