子供が学ぶべきは「英会話」「プログラミング」より「ピアノ」!? その驚きの効果とは

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なぜ東大合格生の2人に1人は「ピアノレッスン」経験者なのか――おおたとしまさ(下)

 東大生の2人に1人が経験している「ピアノレッスン」。そのワケについて、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が迫る後編である。“ピアノを習うだけの経済的余裕”“レッスンを続ける忍耐力”といった分析のほか、音楽ジャーナリストの菅野恵理子氏は「脳科学の観点からもピアノの効果は実証されてきています」と証言する。

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 幸福学の研究者として知られる慶應義塾大学大学院の前野隆司教授と、ヤマハ音楽振興会が共同で行った「幼児期・児童期の音楽学習と幸福度やグローバルネットワーク社会への適応力との関係性に関する調査」では、音楽系の習い事経験者は「幸福度や生活満足度が高い傾向がある」「学業成績が良いと自己評価する傾向がある」「多様性適応力が高い傾向がある」などの結果が得られた。

 また、多様な人がともに協創する際に必要な能力を指標化した「多様性適応力」については、8つの能力要素のうち、7つの要素(挑戦意欲、俯瞰力、創造力、利他精神、許容力、信頼関係構築力、コミュニケーション力)において、音楽系の習い事経験者が高い傾向が確認できたとのこと。

「音楽を学ぶなかで、このような能力が開発される可能性があると見られる」

 と前野教授。

 さらにピアノを習うことの有効性について実地的に調べようと、一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(通称ピティナ)を訪れた。ピティナは、1万6000人以上のピアノ指導者からなる公益法人だ。専務理事の福田成康さんは開口一番こう言った。

「数学を学ぶことの意味なんて誰も立証できないし、誰も立証しろなどと言わないのに、なぜピアノだけその効果を立証しなければいけないのでしょうか!?」

 おっしゃるとおりである。主要科目を学ぶのと同じかそれ以上の意味が、音楽を学ぶことの中にも絶対的にあるのだが、それを論理的に証明するのはそもそも難しく、それは数学だって同じではないかというのだ。

「学校における『主要科目』から音楽がもれてしまったのは、きっと大学入試で試験がしにくいから。それだけの違いです。でも社会に出て必要になる能力は主要科目だけでは養えません」

 ピティナで長年採用を担当してきた立場からこうも言う。

「大人になって、できる人とできない人の差は、実は目に見えるスキルではなく、基礎力の差なのです。社会に出てから目に見えて必要になるスキルは、大概大人になってからでも学べます。だからこそ高校生くらいまでは、大人になってからは普段使わないことをしっかり学んでおくべきだと思います。もっと小さな子供のうちは、そのころにしかできないことをすべきです。表には表れにくい能力こそを鍛えておくべきです。それが本当の基礎力というものでしょう」

幼児のうちから知性の土台を

 建物の基礎は表からは見えない。同様に、人間の能力も、表からは見えにくい基礎をしっかりと築いておくことが大事だというのだ。

「その意味で、まだ言葉が十分に理解できない幼児のうちから音楽に触れることを強くおすすめしたいと思います。言語に関わる能力ばかりを知性だと思っている人が多いかもしれませんが、それは単なる知識です。人間の知性とは、身体性や感性をも含んだもっと幅広いものです。音楽教育を通して、言語を使えない幼児のうちから知性の土台を築くことはできるのです」

 日本では数学ができるだけでさまざまな選択肢が開けるのに、音楽ができるだけでは選択肢が広がりにくいと福田さんは指摘する。

「ピアノをやってきた人には独特の、決められたことを最後までやり抜くまじめさがあります。これは受験勉強でも社会に出ても通用する能力です。日本では音楽を学ぶというと、『将来稼げない』と心配されますが、それは音楽そのもので食べていこうとするからでしょう。音楽で培った各種能力を仕事に活かせば、必ず稼げます。たとえばシンガポールにある芸術系の公立中高一貫校スクール・オブ・ジ・アーツ・シンガポールでは、卒業後も芸術の道に進むのは約2割で、そのほかの生徒たちは医者になるなど、各界のリーダーを目指しているそうです。日本の音楽教育もそうなるべきだと思います。ちなみにピティナの採用履歴書フォームには、学校歴だけでなく、習い事歴も書く欄を設けています。ピアノが上手な人は例外なく優秀です」

 日本でも一部の学校は音楽教育の有効性に気付いている。たとえば、2016年の東大推薦入試の合格者の中にはピアノコンクールでの活躍が評価された受験生もいた。

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