AIが仕事を奪うのは“未来の話”ではない――「パワードスーツ症候群」とは

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非正規雇用の増加

 これがパワードスーツ現象で、すべてのホワイトカラーの仕事の価値が下がってしまうのだ。

 このパワードスーツ現象が実社会にどのような影響を及ぼしているかというと、それが非正規雇用の増加である。

 人工知能とスマホの進化で、以前であれば熟練正社員でなければできなかった仕事を、比較的短時間しか訓練をしていないパートタイム従業員で置き換えることができるようになった。

 最近、こんな経験があった。私が滞在したアメリカのあるリゾートホテルで同世代のフロントのスタッフにとてもお世話になった。

 仲良くなった後で聞いたところ、実は彼女は2カ月前にこの業界に入ったばかりの新人だというのだ。私が滞在中にしたいろいろとこまごました質問や依頼に、彼女は手元の端末をたたくことでまるで熟練のホテルスタッフが対応するようにノンストレスでこたえてくれた。そのため私は彼女が新人スタッフであることに全く気付かなかった。

 仕事消滅が起きるのは20年後かもしれないが、実はそれよりも前のタイミングで、このパワードスーツ効果によって正社員の仕事がつぎつぎと消滅して、社会全体で非正規労働者の仕事ばかりが増えていく。そしてこのことの方が身近な社会問題になるだろう。

(3)へつづく

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鈴木貴博(すずき・たかひろ) 経営戦略コンサルタント。東京大学工学部卒業後、ボストンコンサルティンググループ等を経て2003年に独立。人材企業やIT企業のコンサルティングの傍ら、経済を切り口に社会問題を解説する経済評論家としても活躍している。

週刊新潮 2017年11月9日号掲載

特別読物「あなたの仕事を奪う『AI社会』3つの誤解――鈴木貴博(経営戦略コンサルタント)」より

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