久々にドラマ出演の井上真央が魅せる毒親ドラマ「明日の約束」(TVふうーん録)
毒親を取り上げるドラマが多い。私が子供の頃の昭和には、非行や不良、問題のある子供に振り回される親の苦悩を描くドラマのほうが断然多かった気がする。今は逆だ。問題のある親に人生を左右されてしまう子供の絶望が大人気のお題に。
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今私は45歳、いわゆる親世代だ。実は、私の世代が社会的にも情緒的にも最も厄介な世代なのではないかと思っちゃったよ。だって、子供の頃は子供の非行が問題視され、親世代になったら毒親が問題視されとるし。ざっくり言えば、昭和40年代生まれがいつの世でも社会問題の主犯格じゃないかと。そんな自虐はさておき。
カンテレ制作「明日の約束」がとても良質なドラマなので、紹介しておきたい。
主役は井上真央。スクールカウンセラーとして高校に勤めている。ある日、ひとりの男子生徒(遠藤健慎)が亡くなったことから、学校内に不穏な空気が漂い始める。クラス内、部活内でいじめがあったという声も。
遠藤の母親を演じるのは仲間由紀恵。モンスターペアレントとして中学時代から有名で、ヒステリックに息子の死をメディアに訴える。原因は学校や教員にあると主張し、訴訟を起こす。
思春期の高校生の残酷な生態を映し出しつつ、サスペンス調で進む展開。これはカンテレが得意なヤツだ。東方神起の歌も、ドラマチックな展開を煽(あお)るよねぇ。
褒めちぎりたいのは井上だ。彼女自身も支配型の毒母(手塚理美)に苦しめられ、絶望の日々。母娘ふたりの場面では、目が明らかに死に、唇で諦観を表現。憤怒や怨みではなく、静かな諦観とはこういう顔なのだと納得。手塚も、精神的な不安定さを首から上の激しい動きで熱演。さすがだなぁ。
「明日の約束」というタイトルは、幼少期から手塚が強要してきた交換日記のことだ。幼い娘が自分の意に反する行動をとったときに、戒めと呪いの言葉を「約束」という形にして押し付ける。
母親の顔色を窺いながら生きるあまり、諦観まで身に付けてしまった井上が不憫(ふびん)でならない。友達と遊ばせてもらえず、好きな文具を破壊され、年頃になってもブラジャーを買ってもらえず、「女ぶって気持ち悪い」と言われ続ける地獄。
井上の恋人・工藤阿須加は、手塚の毒が理解できない。実は、工藤も心に闇を抱えている。夭折(ようせつ)した兄(家庭内暴力の常習者)に心を向けすぎた両親の元で育ち、怒りのコントロールができず、井上に暴力を振るってしまう。男子生徒の心の闇も問題だが、井上も悲劇の渦中にいる。親や恋人から、教育や愛という名の暴力を受けている人は全力で逃げて。人権侵害と気づいて。そこも描いているのだ。
歪んだ親子関係の惨劇が満載なのだが、実は救いもあった。初回で母親のネグレクトに遭っていた女子生徒(山口まゆ)が、叔父の家に身を寄せることに。山口は母を捨てたと自分を責めるが、井上が心に寄り添う。
毒親からの卒業も描くことで「重い・暗い・救いがない」だけではない深さを感じた。毒親から逃れるヒントと、精神的自立の重要性を教えてくれるはず。