センキョのハシオ(大橋巨泉)最強の司会者だ! 「せんだみつお」が語る昭和のスター列伝
同じ脳みそがあるんなら、使わなきゃソン
せんだ これはよく言われてることだけど、「俺は生放送の人間、アドリブが第一」って巨泉さんの哲学は、一貫してたみたいだね。「台本はあっても原稿は読まない」って言うんだから。その台本だって、進行を確認するために目を通すくらい。たとえば収録中、話が台本から脱線しちゃったとするじゃない? そうしたら堂々と台本を開いて、「アッ!これは後の方の話だった」って間違いをバラしちゃうくらいなんだから(笑)。
それとこれは番組の関係者に迷惑をかけたくないってことだろうけど、「避けられる危険は未然に回避する」方だった。まあとにかく慎重な人なのよ。慎重も慎重。あるとき、巨泉さんのマネージャーが当時流行ってた踵の高いロンドンブーツを履いて車を運転しようとしてるのを見て、「そんな靴履いてアクセル踏むな! バカヤロー!」って巨泉さん、大慌てで運転代わったからね。ロンドンブーツに命預けられないって(笑)。ゴルフのコンペの途中でも、風邪引くといけないからって雨が降ってきたらすぐ帰っちゃうし、同じ理由でマスクしている記者には絶対、取材させなかったしね。
そういう過剰な性質もあってか、何に対してもとにかく、とことん極める人だったね。たとえば、将棋に凝ったって聞いて伊豆の家に行ったら、サウナの中に至るまで、家のあちこちに将棋の本が積み上がってるの! あと、「11PM」で巨泉さんが初めてアメリカに行ったとき、タクシーの運転手に「○丁目を右折して、次はどこそこを曲がって」って事細かに完璧に指示してたんだって。生まれて初めての場所だから事前に観光ガイド本を全部頭に入れたんだって! もとの頭がいいうえに異常なほどの勉強家だから、怖いものなしだよね。
――巨泉さんが博学なのは、そういう努力の賜物なんですね。
せんだ 努力というより、負けず嫌いというか、とことん突き詰めなきゃ気がすまない完璧主義者なんだろうな。「人間、同じ脳みそが頭の中にあるんなら、使わなきゃソンじゃねえかよ」ってよく言ってたけど、これ、完璧主義者であり、合理主義的なところも大いにあった巨泉さんの性格をよくあらわしている言葉だと思うよ。
そんな人だから、嫌なものは嫌だってはっきり言うじゃない。それがときに傲慢に映ったりもしたと思うんだけど、僕はそうは感じなかった。道で一般の人に話しかけられても気さくに返してたし、人に意地悪したりヘンに懐柔しようとする人でもなかったし。まあいってみれば、気っ風のいい生粋の江戸っ子って感じだな。僕が社長とモメて事務所を辞めることにしたときも、「おうダセン、いいんだいいんだ、辞めるなんてことはどうってことないんだよ!」って言ってくれたしね。
それと弟の大橋哲也さんから、「辞める事は仕方ないけど、辞め方が大切なんだよ」と言われたことも覚えてる。
――弟さんまでがそんな、温かい言葉を……。
せんだ つまりは、せんだが事務所に反旗を翻したとかってすぐにバーッと広がる古い体質の業界だから、気をつけてがんばれよってね。
――それでがんばって、巨泉さん直伝の司会の技を、今でもいろいろな場所で披露していますもんね。
せんだ そうそう、暖簾分けみたいなもんですよ! って、結局、僕、マルクもナオンもカイシも、センキョのドリシタ!?
(取材・文=塚田泉)
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