拳法からボクシング世界王者に “シンデレラボーイ”尾川堅一
これは“シンデレラボクサー”の物語である。
主人公は、尾川堅一(29)。
元々、日本拳法の使い手である彼は、明治大では拳法部主将だった。ボクサーになるべく帝拳ジムの門を叩いたのは大学卒業後だ。
「ロンドン五輪金メダリストからWBA世界ミドル級王者になった村田諒太(31)など、今のボクシング界はアマで活躍したエリートをいかにプロで開花させるかという勝負になっています」
とボクシングライターが解説する。
「その点、尾川は名刺代わりのアマタイトルを持っておらず、ジムにとっては売り込みにくい選手でした」
村田らエリートがひしめく名門ジムの片隅で燻っていた尾川。だが、ある日、彼の前に突如“かぼちゃの馬車”が現れた。
「8月末、IBF世界スーパーフェザー級王者が防衛戦で体重超過してタイトルを剥奪され、王座は空位に。本来は同級1位と2位で王座決定戦をするところ、たまたま1、2位共に空位だったので、4位の尾川にお呼びがかかったのです」
馬車は太平洋を駆け抜け、ボクシングの聖地・ラスベガスへ。そして日本時間10日、かの地で王座決定戦が行われた。相手は地元米国出身で同級5位のテビン・ファーマー(27)。
「渡辺二郎という先例がありますが、拳法出身のボクサーは珍しい。専ら右ストレートが武器で、華麗なフットワークとは無縁のファイトスタイルですが、それが試合ではまりました」
結果は判定に持ち込まれ、敵地ながらも2-1で尾川が勝利した。
「日本のボクサーが米国で世界王者のベルトを手にするのは1981年の三原正以来36年ぶり。ラスベガスでは初の快挙です」
愛妻と3人の息子たちの名が刺繡されたボクシングシューズが光り輝く。さながら、ガラスの靴のように。