再度観ると違う景色が広がる「遡り系の名手」クドカンの作品「監獄のお姫さま」(TVふうーん録)

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 過去と現在を行き来する構成のドラマは面白い。NHKで放送している海外ドラマ「THIS IS US」が秀逸だ。36歳になった三つ子の現在と過去、その両親の話が絶妙に入り混じる。決して複雑ではない。時の経過を表現する映像が素晴らしい。薬物中毒に陥る様を乱れる字で表したり、洗濯機の進化で家族の変化を見せたり。シンプルで粋なのだ。

 さて。日本で「遡(さかのぼ)り系の名手」と言えば、宮藤官九郎だ。「監獄のお姫さま」も遡り系なのだが、初回はとっ散らかってて正直わからなかった。バカなのか、私。同局他番組「サンジャポ」で始まるあざとさも苦手だし、夢と現実の交差も余計だし、女優陣の掛け合いも上滑りしてたし、伊勢谷友介は素敵な色男だが、滑舌悪いし。

 こりゃあクドカン作品で初めての駄作かと思っていたのだが、2話以降で俄然面白くなってきた。6回まで観たところで、初回を再度観ると違う景色が広がる。やはり女子刑務所モノ・女囚モノは垂涎(すいぜん)だね。

 主役は、浮気した夫を包丁で刺し、傷害の罪で服役する小泉今日子。鈍くさくて、心優しいキョンキョンは新鮮。強気で意地を張る前近代的な女よりも、ややウエットでちょっとバカな役のほうが魅力的と知った。

 女囚には極道の妻の森下愛子、覚醒剤中毒の猫背椿、ドラマ好きの坂井真紀に外国人枠のステファニー・エイ。獄中日記を配信し、所内でセレブ扱いの経済アナリスト・菅野美穂もいる。鬼刑務官の満島ひかりは規律重視で厳しい反面、女心への寛容と慈愛も覗かせる。

 女囚たちを一致団結させたのは、牛乳会社の社長令嬢で、殺人教唆(きょうさ)の罪で入所してきた夏帆だった。婚約者だった伊勢谷友介に罪を着せられ、牛乳会社も乗っ取られ、伊勢谷の子を身ごもって服役中に出産、という境遇。小泉ら同室の女囚たちは協力し合って子供を育てるも、伊勢谷に謀(はか)られて子供を奪われてしまう。登場人物も多く、この経緯を知らないままで初回を観るのは、そりゃ難しいわな。

 夏帆(通称・姫)の無実を訴えるために、出所した女囚たち(と満島)が伊勢谷を誘拐拉致。オバサンたちがわちゃわちゃと大雑把な復讐を目論(もくろ)むのが現在、復讐に至るまでの刑務所内での経緯が過去、これが行きつ戻りつで展開していく。

 120%全力でふざけたコメディだが、女たちの不運な境遇は適度な同情と共感を呼ぶ。彼女たちはクソ夫やカス彼、クズ父の犠牲者でもある。小泉や菅野は、涙の見せ場もきっちり作った。でもお涙頂戴ではない。反省もそんなにしていない。むしろ図々しい。底抜けに明るい女囚モノは心地よい。

 初回の満島のセリフを振り返る。「図々しいんですよ、犯罪者って。時間を巻き戻せると思ってるんです。刑務所のことタイムマシンかなんかだと思ってるんです。出てきたら犯した罪までチャラになると思ってるんです。だから二度三度同じ罪を犯すんです」。遡り系ドラマに最適のお題だと改めて納得。高い再犯率や真犯人が野放しという現実問題も踏まえつつ、女の友情の行く末を凝視したい。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年12月7日号掲載

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