すさまじき「活字」パワー 前頭葉活性化の「読書三昧」百寿者たち

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「ゆっくり読んでくれ」

「なにか新しいことを学習するとき、脳内でニューロンが増加し、これまでになかった神経回路が作られることが知られています。オーストラリアのある研究で、知的好奇心の強い人は、MCI(軽度認知障害)になっても症状が改善する場合が多いことがわかっている。新たなことを学び続けようという姿勢が、アルツハイマーの予防、治療に重要だということがわかります」

 本や新聞を読んで新しいことを知りたい、という姿勢が、前頭葉を活性化させるというのだ。

「さらに高齢者になるほど、脳の健康度合いと身体の健康度合いの相関が高いことが知られている。島根県の長寿者に読書好きが多い理由は、ここから説明できるかもしれません」

 だが、テレビでなにかを知るのではダメなのか。

「テレビを漫然と眺めていても、脳は活性化しません。自分なりの好奇心を持って積極的に情報を取り入れることが大事。読書は好奇心や問題意識を持って本を選び、集中して読み進めなくてはならないので、脳を活性化する効果が高いと思われます。新聞もいいですが、読むのが習慣化しているケースも多く、読書ほど積極的な行為ではありません」

 この11月17日、県内最高齢の109歳で亡くなった平こまゑさんも、無類の読書好きだったと、娘婿の石田兼英さんが回想する。

「平岩弓枝さん、宮尾登美子さん、池波正太郎さん、西村京太郎さんの本が特に好きでしたが、ジャンルを限らずいろいろ読んでいました。いつも裸眼で」

 まだ歩けたころは、

「車で本屋に連れていくと、たいてい5、6冊は好きな本を買う。両足の大腿骨を骨折してからは、新聞広告を見て“これ買うてきてくれ”と言うから、代わりに買ってきましたけど、読むのが早くて“もうちょっとゆっくり読んでくれ”と私らが頼むくらい。単行本は1、2日で読み切ってしまうから、すぐ買ってこなあかんかったねえ。昔読んだ本を新しく買った素振りで渡すと“これは読んだ”と突き返されました」

 109歳まで、脳が活性化していた証しだろう。今も遺族のもとに、宮尾登美子の『きのね』、『菊亭八百善の人びと』などなど、山と積まれたままだという。

週刊新潮 2017年12月7日号掲載

特集「5年連続『100歳以上』が日本一多い 超寿王国『島根県』の秘密はまだあった! 」より

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