いきなり「覚せい剤」で幕開け 江夏豊の「私の履歴書」連載
〈もうこの世にいないものと思ってきたおやじが現れたのは、広島時代の1979(昭和54)年……〉
こんなミステリー張りの書き出しで12月1日、江夏豊氏(69)の連載は始まった。日経新聞最終面の名物コラム「私の履歴書」である。
第1回には、さらに次のようなクダリもある。
〈現役引退後の93年、覚せい剤取締法違反で逮捕、有罪となり、服役した。「壁」の中の2年は長かった〉
〈ありがたいことに、すべてを失った自分に、温かい手をさしのべてくれる方々がいた。(中略)感謝の念を胸に、書いて行きたい〉
連載のどこかでは触れなければならない“不名誉”をいきなり曝け出した格好だ。
「驚きましたね。家が近く、彼とは親しくお付き合いをしています。普段から口数が多い方ではありませんが、特に過去の過ちのことを口にするなど一切ない人のように思っていました。自ら進んで語るとは……」
そう話すのは、野球評論家の有本義明氏。
「恐らく日経の担当者が機転を利かせたのでしょう。彼は今、精神的支えとなっている奥さんと静かで落ち着いた生活をしています。だからこそ過去の嫌なことにも向き合えるんだと思います」
「私の履歴書」には、野球界からも長嶋茂雄、王貞治、吉田義男、野村克也など数々の人物が登場している。
江夏氏も、阪神、南海、広島、日本ハム、西武と渡り歩いた17年で、1シーズン401奪三振の未だ破られぬ日本記録、最優秀救援投手5回、オールスターでの9連続奪三振、あるいは「優勝請負人」の異名をとるなど、輝かしい球歴は彼らに引けを取らない。ただあの“汚点”を除いては――。
「履歴書は少年時代のやんちゃぶり、硬球を初めて握った時の感動と続いています。この先、南海移籍時の阪神・吉田監督との確執や西武時代の引退の真相を、どれだけ語ってくれるかですね」(スポーツ紙記者)
洗いざらい書き尽くしてブーイングを封印できるか。