流行語大賞「フェイクニュース」の説明もまたフェイクだった
「フェイクニュース」が流行語大賞に
毎年大きな話題となる「ユーキャン 新語・流行語大賞」。2017年の大賞は「忖度」「インスタ映え」で、それに続くトップテンの中には「フェイクニュース」が選ばれた。
この言葉が選ばれること自体には異論を挟む人は少ないだろう。なにせ大統領が頻繁に使っていたくらいである。
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が、問題はその説明。同賞のホームページでは、「フェイクニュース」について、以下のような説明が掲載されている。
「ネット上でいかにもニュース然として流布される嘘やでっち上げ。2016年のアメリカ大統領選挙では『ローマ法王がトランプ候補の支持を表明』『クリントン候補がテロ組織に資金を渡した』など、いかにも報道サイトっぽい雰囲気のウェブサイトに掲載され、それがあたかも事実のように拡散した」
この説明を読んで、違和感を持つ人も多いのではないか。フェイクニュースは、ネット上で流布するもの限定の概念だったっけ? と。たしかトランプ大統領は、CNNなど既存メディアに対して「フェイクニュースだ!」と言っていたはず……。
その名も『フェイクニュースの見分け方』(烏賀陽弘道・著)には、「言葉の定義を明確にすることは、論点を明確にすることでもある」とある。つまり、何かを調べる際に、まず言葉の定義をきちんとしておくことが大切だというのだ。また、同書では「公開情報にあたることが大切だ」ともアドバイスしている。
ネット限定ではない
そこで誰でもすぐにアクセスできる英語版のウィキペディアで「fake news」を見てみよう。
すると、最初に次のように書いてある。
「フェイクニュースとは、従来型の印刷物や放送、またはネットを介して伝えられる、意図的な誤情報、悪質な情報で、イエロージャーナリズムやプロパガンダの一種である」
少なくとも、「本家」アメリカでは「ネット上」の情報に限定していないことは明らかだろう。ところが、「流行語大賞」に限らず、日本では「フェイクニュース」というと「ネット」と結びつける論調が見られるのも確かだ。
もちろん、ネット上には怪情報が溢れていることは事実であるが、一方で新聞など大手メディアの誤報をいち早くネットユーザーが指摘することも珍しくない。『フェイクニュースの見分け方』の中で、著者は次のように述べている。
「よく『どの新聞なら信用できますか』という質問を受ける。あるいは『どのテレビ局なら』『どの雑誌なら』『どの番組なら』と聞かれる。そういう時、私はこう答えることにしている。『情報は料理です。媒体は料理を運ぶ器です。みなさんが食べるのは料理であって器ではありません』
ある料理を『美味しい』と気に入ったとき、覚えておくべきは料理を作った板前・シェフであって、皿を焼いた陶工ではない。
信用できる発信者を見つけたなら、その人がどんな媒体に移ろうと、発信する情報を追いかければ良い。
発信する情報が事実である精度が高ければ、別に報道記者でなくてもいい。研究者や弁護士など『高リテラシー職業』の人でなくてもいい。普通の市井の人でいい。肩書や職業はあまり関係がない。インターネット時代は、そういう人も事実を公に発信できる」
多くの場合、「フェイクニュース」と「ネット」を結び付けたがるのは、新聞などオールドメディア出身者である。してみると、「新語・流行語大賞」の説明で「フェイクニュース」=ネット上の情報、となっていたのは、そういう人たちへの「忖度」ゆえなのだろうか。