【日馬富士暴行問題】相撲業界とあの業界に共通する「礼儀」の問題

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 横綱・日馬富士の暴行事件に関する報道では、日頃相撲関連の記事ではあまり目にしない単語が頻出している。

「裏切り」「アウトレイジ」「戦闘宣言」「潜伏先」――

 まるでヤクザ映画のようなタッチである。

 これに拍車をかけているのが、親方たちの見た目だろうか。オールバックにサングラス姿の貴乃花親方や、どこか俳優の白竜さんに似た感じの伊瀬ケ浜親方等、彼らの体格の良さが災いして、何となく「その筋感」を醸しだしているのだ。

 そもそも、「親方と弟子」という疑似親子関係は、そういう世界と共通するところがある。

 また、事件そのものに関しても、ちょっとそういう界隈と似たようなキーワードが登場している点も見逃せない。

 その代表例が、「礼儀」。日馬富士の暴行のきっかけは、貴の岩の「礼儀を欠いた態度だった」と伝えられている。

そのため、横綱に対する失礼がひきがねになっており、暴行は許されないものの、被害者にも落ち度があったかのような論評をするコメンテイターまでいる。

 しかし、実際のところ、「礼儀」というものは定義が曖昧なゆえに、閉ざされた組織においては、とても便利に使われるマジックワードである。

 ヤクザなど、さまざまなアウトローの話を聞くことをライフワークとしている犯罪社会学者で「暴力団博士」の異名を持つ廣末登さんの著書でも、「礼儀」という言葉はしばしば登場する。ヤクザを辞めた人たちへの聞き取りをベースにした『ヤクザになる理由』の中で、「礼儀」について元ヤクザのNさんは、「先輩立てる」ことこそが「不良の礼儀」だと語っている。

 廣末さんは、こう解説する。

「ヤクザ社会では『所作(ヤクザの礼儀作法、態度、振る舞い)にはじまり、所作に終わる』と言われています。なぜなら、ヤクザの組織とは、そもそもが、清く、正しく生きられない人たちの共同体であるから、組を維持するためは、そうした目に見える形式的なルールが重視されるのです」

 廣末さんによれば、不良やヤクザの世界に身を置いた人には、ある種の「礼儀正しさ」が身に付くという面はあるのだという。

「私も礼儀正しいね、と言われることがありますが、実はそれは不良時代の名残です。ヤクザの場合は、親分の機嫌が悪いときに下手な口答えをすると、ガラスの灰皿でアタマをカチわられたりします。自然と『所作』は体にしみつくわけです。

 このように叩き込まれた『所作』は、一般社会でも通用する面もないわけではありません。しかし、あくまでもクローズドな集団での言葉であり、態度であることには留意すべきでしょう」

 今回の一件では、貴乃花親方が警察の捜査には協力する一方で、内輪の調査に非協力的であることを非難する向きもいた。これもまた「トラブルを警察にチンコロ(密告)するなんてもってのほか」という、あっちの世界の論理に近いのかもしれない。

デイリー新潮編集部

2017年11月29日掲載

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