くすぶり続ける「慰安婦問題」根底には歴史観の違い
「歴史」の概念が異なる国
アメリカ・サンフランシスコ市が慰安婦像を市有物としたことが、日本国内では大きな波紋と反発を呼んでいる。像に添えてある説明文は、明らかに韓国や中国の持つ歴史観をベースにしたもので、日本側が受け容れられないと考えるのは道理だろう。
どういう訳か、日本国内でも韓国や中国側の歴史観に立つ人も一定数いるが、大抵の場合、彼らの主張は歴史的事実に基づいていないことが多い。そのため、いつまで経っても歴史問題は終わらない。
なぜこのようなことになるのか。有馬哲夫早稲田大学教授は、そもそも「歴史」の概念が異なるところに根本の原因がある、と指摘している。有馬氏の著書『こうして歴史問題は捏造される』の解説をもとにどこが異なるのかを見てみよう(以下、引用は同書より)。
「歴史とはなにか、それがなにを指すかは国によってかなり違います。とくに社会体制、つまり自由主義か共産主義か独裁制か民主制か、民主主義と言論・報道機関がどのくらい成熟しているかで相当の違いがでてくるのです。
20世紀に入ると実に多くの国々が民族自立の考え方のもとに独立しました。これらの国々の歴史とは、民衆がどのように独立を勝ち取ったか、どんな指導者のもとにどんな帝国主義的勢力と戦って国を建国したかという正統性やイデオロギーを国民に教え込む『物語』になります。こういった国では、歴史的事実よりも『建国イデオロギー』や『政治イデオロギー』が重視されることになります。『物語』が『イデオロギー』に変わったといえます」
このため、中国の歴史教科書では「共産党指導者が帝国主義の日本軍を打ち破って現在の国家を建設した」というイデオロギーに基づいた「物語」が堂々と書かれている。実際には、日本軍を打ち破った主体は国民党軍であるが、それは現在の中国には不都合な真実なのだ。
日韓戦争?
韓国は民主主義の国だから、日本やアメリカと同じだろう、というのは楽観的すぎる見方である。そもそも歴史の大きな流れ自体、イデオロギーをもとに教科書で記述されているのだ。
「韓国の場合も、帝国主義日本に対し独立運動を戦い、その圧政を打ち破って建国を達成したという『建国イデオロギー』にしがみつきます。しかし、朝鮮半島は日韓併合に基づいて合法的に日本に併合されました。欧米のように、日本が植民地戦争をしかけて植民地にしたのではありません。それ以後も、日本は一度も韓国と戦争したことがなく、韓国に戦争で負けたということもありません。したがって、韓国は戦勝国だという主張は誤りです。日本が敗れたのは先の戦争でアメリカに対してだけです(日ソ中立条約を破ってソ連が火事場泥棒的に行った満州侵攻などを戦争と認めればソ連に対しても)。
それに韓国という国は1948年になって成立しています。日本を打ち破って建国したというなら1945年のはずです。
また、独立運動というのですが、韓国の教科書を読んでも、指導者や根拠地がころころ変わり、どう見ても一貫性がありません。いろいろな抵抗勢力が散発的にテロを行ったというのが実情です。歴史教科書は、南京に臨時政府を作ったとも主張するのですが、これは国際的に認められていませんでした。国際会議に出ていたというのですが、国や地域の代表として参加したという実績はありません」
独裁者の作ったイデオロギー
客観的事実として、日韓戦争などは起きていないし、韓国が日本と戦って独立を勝ち取ったという事実は存在しないのだが――。
「建国後アメリカの意向をうけて韓国大統領になった李承晩は、自分がかつて携わって、実らなかった抵抗運動を賛美し、しかもそれが建国に結びついたと偽り『建国イデオロギー』を作りだしました。自分の大統領としての正当性を訴えるためのフィクションです。
李は独裁者として国を追われるのですが、韓国はその後もこの『建国イデオロギー』にかわる、国家としての正当性を訴えることができるイデオロギーが見いだせず、かといって、いまさらアメリカなど戦勝国のご都合主義によって生まれたという歴史的事実を直視することもできず、追い出した独裁者の『建国イデオロギー』を微修正しながら現在に至っています。
韓国のメディアも、独裁制が最近まで続いていたために、党派性が強く、煽情主義に流れ、事実を重んじているとはいえません」
多くの日本人は、歴史を客観的事実だと考えようとする。しかし、それはとんでもないお人よしなのかもしれない。