30代「東芝」社員の転職日記 異業種メーカーは“最終落ち”、次がダメだったら…の不安

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“うちは潰れることはない”

〈7月15日・土曜日 “禍福は糾(あざな)える縄の如し”というが、まさにその通りだ。数年前、大学時代の友人に紹介された女性と、本格的に付き合うことになった。以前の飲み会で話が盛り上がり、自分が東芝の社員だと話しても、“大変ですね”としかいわず、気にしている様子もなかった。その後も、何度かメールでやり取りをしていたが、こうしたことになるとは自分でも驚いている。彼女は美人で性格もいい。転職活動をしていることは話していない。

 最終面接まで行った異業種のメーカーから“今回は、ご縁がなかった”との連絡が来た。思ったほどガッカリしなかった。彼女ができたからか。こんなことで大丈夫かな。残るのは、手ごたえのあった電機メーカー1社だけになってしまった。〉

〈7月27日・木曜日 出社すると、府中や京浜事業所に勤務する、同期や知り合いの技術者から多数のメール。どのメールもJR南武線の駅構内などに貼られたポスターに関する内容だった。そのポスターには、「シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい。」とか、「えっ⁉あの電気機器メーカーにお勤めなんですか! それならぜひ弊社にきませんか。」と書かれているのだという。ポスターを出したのはトヨタ自動車。技術職の社員たちのメールが、なぜか嬉しそうで無性に腹が立つけど、自分も“ぜひ弊社にきませんか”といわれたい。〉

――JR南武線沿線には、東芝以外にも富士通やキヤノン、NECなどの工場や研究所がある。トヨタ自動車は、東芝の技術者を狙い撃ちしてポスターを貼ったわけではないだろう。だが、東芝の技術者が勤務する研究所や工場では、このポスターの話題で盛り上がっていたようだ。

〈8月1日・火曜日 学生時代に聞いたリクルーターの言葉を思い出す。“うちは、一部上場企業だから潰れることはない”。あれから十数年。ついに東証一部から二部へ降格した。覚悟していたが、寂しい。自分は、まだ来年の所属先の辞令をもらっていない。最終面接まで残っているあの電機メーカーの1社がダメだったら、会社に残らざるを得ない。ますます不安が募る。〉

〈8月10日・木曜日 ようやく、2017年3月期決算が発表された。監査法人の“限定付き適正意見”ってなんだよ。監査法人には、多額の監査報酬を支払っていると聞いた。監査法人が指摘した通り、社内の内部統制は万全とは言い難い。だけど、数字を確認してハンコを押すだけの監査法人に大金を支払わなければならないのは、腑に落ちない。〉

――17年3月期決算を発表できたことで、上場廃止の危機はひとまず回避された。しかし、決算の中身を見ると、最終赤字は前期の4600億円を大きく上回る9656億円で、債務超過額は5529億円。来年3月末までに多額の債務超過を解消しなければ上場廃止になる。その危険を回避するために、利益の9割を占める「東芝メモリ」売却が急がれていた。

〈8月13日・日曜日 3連休を利用して、実家へ帰省する。珍しく父親が、2人で話したいと真顔でいってきた。予想はしていたが、“会社は大丈夫か。転職した方がいいんじゃないか”と。それで“もう転職活動中で、最終面接まで進んでいる会社がある”と伝えると、少し安心したようだった。父親とじっくり話し合ったことで、会社に残る選択肢が消えたような気がする。だけど、最終の1社が駄目だったら……。〉

(下)へつづく

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週刊新潮 2017年11月23日号掲載

特集「最終面接の結果やいかに!? 『東芝』30代社員のトホホな『転職活動日記』」より

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