産婦人科のリアルを反映した「コウノドリ」に拍手!!(TVふうーん録)

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 医療系ドラマには必ずあちこちから文句が出る。医療現場からは荒唐無稽と叩かれ、私ら一般人からは些末な茶々が入る。でも、「コウノドリ」は各方面から文句が出ない医療モノとして確立した感がある。そもそも産婦人科医は無力で、出産は100%安全ではないという前提から始まっているからだ。そして、医療現場の疲弊と本音、イマドキ妊婦の実態、産んで終わりではない厳しい現実を丁寧に描いているからである。

 深いなと思うのは、ドキュメンタリーで描くにしても賛否両論に配慮しなければいけないような内容に、ちゃんと医者が向き合っている様子を入れこむ点だ。

 例えば、初期の子宮頸がんに万能と思われがちの子宮頸部円錐切除術。これで完治する人もいれば、すべてを取り切れずに、結局は子宮摘出手術をするケースもある。担当する医者の腕前に左右されると聞いたこともある。第2話で土村芳(かほ)演じる妊婦がやはりこの後者だったのは、非常にリアルだと思うし、医療の限界も臆せず描くところがいい。

 また、子宮頸がんワクチンについてスタッフで話し合うシーンがあった。国はワクチン推奨を取りやめたこと、WHOはそれを問題視していること、ワクチン推奨派と慎重派の議論を劇中に取り込んでいたのだ。個人的に興味がある「医療の限界と隠された真実」「海外と比べて特殊な壁のある日本の医療」を作品に盛り込むことは評価したい。が、金曜夜には重いと言われるのも、まあ仕方ないと思う。

 そして、妊娠・出産・子供に興味のない人は、このドラマにまったく惹かれない。当然だ。ただし「面白いと思わない」とは言えない空気があるのも確かだ。妊娠出産子育てモノを下手にディスると、極悪非道と思われるフシもある。そこは人それぞれ。苦手な人は苦手でいい。今期、私は真面目モードなので、コウノドリは推したいんだけどね。

 懸念材料としてひとつあったのは、前作で主役の綾野剛が奇天烈な銀髪ヅラを被り、陶酔気味にピアノを弾いていた点。今回は改善されたのでほっとしている。

 さらに毎回妊婦を演じる女優陣がホント素晴らしい。特に、産後うつに陥った高橋メアリージュンの虚ろな表情には息を呑んだ。迷信に踊らされる妊婦に川栄李奈や安めぐみ、新生児を置いて夫婦で旅行に出かけちゃう母を木下優樹菜と、視聴者イメージ直結型のキャスティングも絶妙。妊婦の夫が出産育児に非協力的に描かれるのも、女にとってはある種のストレス解消に役立っている。夫への恨み、結構たまっているんだなぁ。

 病院の面々もいろいろと背負わされていて、均衡がとれている。優しさと人情担当は綾野&吉田羊、医者の本音と厳しい現実は星野源が担当。「妊婦への過度の優しさは現場のリスク」と戒める。また「子育てを美化しすぎ」という社会の代弁は、ソーシャルワーカーの江口のりこに託される。

 もし、中絶やレイプ被害の緊急処置と救済システムなども盛り込んでくれたら、性教育・社会派ドラマとして完璧。それは求めすぎか。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年11月23日号掲載

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