時空を超え繋がるネット民の「神」 快楽殺人者「首吊り士」と「酒鬼薔薇聖斗」のシンクロ
ソーシャル・ボンド理論
酒鬼薔薇が“死”に関心を向けたきっかけが祖母の死だったとすれば、白石容疑者にとっては両親の離婚だったということか。
精神科医の片田珠美氏が指摘する。
「海外でも、愛する者を喪った結果、糸が切れたように攻撃衝動を爆発させ、犯行に及んだ連続殺人犯は少なくありません。酒鬼薔薇は祖母の死をきっかけに死への好奇心に取り憑かれ、カエル、さらには猫を殺すようになった。動物を死に至らしめることで、攻撃衝動を外に発散させたのです。でも、白石容疑者の場合、攻撃衝動をまずは自分自身に向け、集団自殺に加わったと言えるのではないでしょうか」
しかし、酒鬼薔薇が猫殺しから3年で人間に対する連続殺人へとエスカレートしているのに比べ、白石容疑者は10年ほどの時間を要している。
なぜなのか。
「犯罪心理学には、“人が犯罪に手を出さないのは社会との絆があるから”というソーシャル・ボンド理論があります」
とは、新潟青陵大学大学院の碓井真史教授。
「白石容疑者は高校卒業後、スーパーの従業員、パチンコ店の店員など職を転々としながらも、社会との繋がりは一貫して持ち続けていました。しかし、スカウトマンとしての悪評が広がり、今春に職業安定法違反で逮捕されたことで、社会との繋がりが断たれた。そこで、10年前から抱え込んでいた攻撃衝動が出現したと推測することができます」
挙げ句、快楽殺人者の仲間入りをしたというわけなのか。“白石容疑者は性的暴行が目的だった”とさる捜査関係者は明かすが、
「快楽殺人者に共通するのは、性衝動と攻撃衝動が密接に結びついていることです」
と、片田氏が続ける。
「白石容疑者は被害者を殺すだけでなく、乱暴も加えている。酒鬼薔薇は男児を殺害したときに射精しています。フロイトによれば、男性は子孫を残す生殖活動を遂行するために2つの衝動がある程度は結びついているもの。でも、この2人はその結びつきが異常なのです」
では、2人に相違点はないのか。
快楽殺人者は遺体にも執着を見せることが多い。酒鬼薔薇は男児の頭部を“作品”と呼び、鑑賞の対象にしていた。ただ、白石容疑者はそれほど執着しているように見えないのが、2人の異なっていると言えば異なっているところです」(同)
20年の時を超え、神格化される2人の快楽殺人者。
シンクロする性衝動の渦は、この社会の深淵に潜む新たな「快楽殺人者」誕生の危機を暗示しているのかもしれない。
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