あの捏造記事はどこで一線を越えているのか――有馬哲夫教授が「文春」に反論

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文春編集部は説明責任を

 次の疑惑は、彼以外の編集部の人間も関わっていたのではないかというものだ。普通、記者の書いたものは、編集長だけでなく、同じ取材チームの記者も目を通す。当然、アイディアも出せば、助言もするし、直しもする。ある意味で、記事は個人ではなく、チームで書くものだ。

 これまで、直接コンタクトをとり、相手を特定できるのがO記者なので、彼の名前をあげてきたが、彼をメンバーの一人とするチームが捏造に関与していたと考えるのが妥当かもしれない。山口氏も、作者として名前こそ出ているものの、そのメンバーの一員だったと考えたほうがいいかもしれない。そもそもベトナム取材は文春編集部によるものだ。

 山口氏がでてきたくてもでてこられないのは、彼らとの関係があるからではないだろうか。そうだとすれば、これはもう「越えてはならない一線を越えた」という表現ではすまない大スキャンダルである。読者の信頼を裏切ったのは、山口氏というより週刊文春編集部だということになるからだ。これによって、週刊文春の記事全体の信頼性が揺らぐことになる。

 したがって週刊文春編集部は、この疑惑に対して十分な説明責任を果たさなければならないだろう。「いや山口氏がすべてやったことです」「コメントの捏造はすべてOがやったことですが、例の記事の捏造については知っていただけです」というのが事実なら、そういえばいいだけのことだ。日頃、週刊文春の記者だということをかさにきて、タレントや政治家を「説明してください」と追い回しているのだから、たまには自分が説明する側に回るのもいい経験だろう。

 最後にこれは断っておこう。文藝春秋の99パーセントの記者および社員は捏造など絶対にしない人々だ。断言する。月刊文藝春秋と文春新書の校正のファクトチェックはすごいの一言につきる。私が『児玉誉士夫 巨魁の昭和史』を書いたとき、編集者から元の原稿の数倍のファクトチェック用の資料をいただいたことは「あとがき」に感謝の言葉とともに書いてある。しかも、彼は私と直接会って原稿の最終確認するために、私の授業が終わるまで、かなりの時間待っていてくれたのだ。

 売春所に関わっていたのが、韓国軍ではなく、腐敗した一部の幹部だったように、捏造にかかわっていたのも、文藝春秋社ではなく、ごく一部の人間なのだ。

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週刊新潮WEB取材班

有馬哲夫(ありま・てつお)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学部・大学院社会科学研究科教授(メディア論)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『歴史問題の正解』など。

2017年11月17日掲載

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