あの捏造記事はどこで一線を越えているのか――有馬哲夫教授が「文春」に反論

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信じられない「いかさま」

 まず、この記事の作者は、知るための努力を十分していない。というより、人まかせにしている。自分で素材や資料をさがそうとせず、リサーチャーに頼んで用意してもらったものを使うというのは論外だ。自分でさがすから、その過程でいろんなことを発見し、確認することになり、素材・資料の価値や使い方を理解することになる。この過程なしには、素材・資料は意味を持たない。リサーチャーにミスリードされたことは明らかだが、責任はあくまで記事を書いた人間にある。

 私は最初の部分、つまり、ベトナム戦争中韓国軍の慰安所があったということを1点、たった3ページの資料で証明しようとしているところで捏造を疑った。通常、他の関連資料も踏まえて「〈韓国軍の〉といえるのか」、「〈慰安所〉といえるのか」という当然の反論を想定しながら、それに対する複数の根拠を踏まえながら論証していくものだ。歴史的記述は、1行であっても、何点もの文書を踏まえている。ところが、この記事はたった1点の文書で一足飛びに「ベトナム戦争中韓国軍の慰安所があった」という結論に至ってしまっている。しかも、他の資料にあたってクロスチェックもしていない。他人まかせなので、できなかったのだ。

 しかも、罪深いことに、この記事は原文に“The Turkish Bath is not operated for the sole benefit of Korean troops.(※編集部訳:ターキッシュバスは、韓国軍のみの便益のために営業していたわけではない)”とあるのをまったく無視し、しかも“The Turkish Bath”を慰安所と読み替えたうえで、韓国軍専用の慰安所があったと断言している。

 数万点もの文書にあたり、何年、何十年かかろうとも、1969年当時において、あるいは過去において、この売春所が「韓国軍専用だった」、また、「腐敗した幹部ではなく、韓国軍当局がこれを管理していた」という「動かぬ証拠」を見つけ出さなければならないのに、たまたま都合のいい1行があるだけの文書をもってきて、全体の主旨とは逆に使って事実を捏造するなど、私からすれば信じられない「いかさま」だ。この段階で、この記事は、歴史的事実にも、読者にも背を向けた、まったくの捏造になっている。良心があったなら、リサーチャーがなんといおうと、ここで「やはりこれはまずい」と思い直し、ボツにしたはずだ。

 ところが、この作者は、なおも嘘に嘘を重ねていく。本人があまりよく知らないといっているにもかかわらず米軍のアンドリュー・フィンレイソン元大佐を証言者に仕立て、その証言を自分の作ったストーリーに合わせて改竄していく。読者に事実を誠実に伝えようとすることを完全にやめたといえる。この記事はもはや読者にとって有害でしかない。

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