ここまでカラー印刷は進んでいた 竹宮惠子初期アートを完全再現!
テレビがブラウン管から液晶になり、ハイビジョン放送が珍しくなくなった時、多くの人は、これが映像の最高峰だと思ったことだろう。しかし、間もなく4Kテレビが登場し、「ここまで綺麗じゃなくてもいいのでは」なんて思っていたら、すぐに8Kまでもが登場。また、映画でもIMAX上映が郊外の普通のシネコンで見られるようになった。日常的に目にする映像のクオリティは上るばかりである。
その一方で、一見、進歩がさほどないように見えるのが「静止画」、つまり写真や絵画の印刷技術。もちろん一昔前に比べれば、カラーの印刷のクオリティは上っているのだが、「4K」「IMAX」といった派手な肩書が無いだけに、実感を得づらい面があるのは否定できない。
しかし、当然のことながらこの分野でも様々な新技術が開発されている。
「プリモアート」をご存知だろうか。
■70年代に「少年同士の恋愛」を描いた竹宮惠子 タブーに挑んだワケとその反響
これは大日本印刷が開発した「高精細印刷技術」の名称。
「高解像度で入力したデジタルデータを、複製画専用のDNPカラーテーブルを使用してデジタル画像処理します。原画に限りなく近い色調やタッチを忠実に再現、繊細な階調表現が可能です」(同社HP)という説明だけだとわかりにくいが、要するに「ものすごく本物に近い印刷が可能」ということだ。
通常のカラー印刷では、どんなにカラフルであっても、実は4色のインクを組み合わせている。ルーペや顕微鏡でカラー写真を見たことがある方ならおわかりだろう。細かいドットの組み合わせで、様々な色を表現しているのだ。
一方、「プリモアート」の方では10色のインクを用いる。当然、従来のものよりも微妙な色の違いまでもが再現できる。そのため「原画に限りなく近い色調やタッチを忠実に再現できる」ということなのだ。
実際に、この技術で印刷した漫画の原画を見た人は驚くはずだ。修正液のあとや、筆のタッチまでもが再現されているため、実物と区別がつかないのである。
「ぜひその技術で、ヌードグラビアを載せてほしい!」
そんなおじさんもいるかもしれないが、ネックはコストだろう。
たとえば最近、この技術を用いた商品として発売された『竹宮惠子画業50周年「風と木の詩」メモリアルセット』。
名作『風と木の詩』の作者である竹宮氏が1970年に構想を得てすぐに物語を書きはじめたノートや、コマ割りやセリフまで描きこんだクロッキーノートを完全再現したものが収録されている箱入りセットなのだが、ここにプリモアートを用いた作品もおさめられている。1971年に竹宮氏が描いた水彩画、《荊(いばら)の花束》が最新技術によって実物と同じ形で再現されているのだ。
ファンならずとも興味を覚える一品ではあるものの、限定500セットということもあって、価格は3万円と、ちょっとハードルは高め。
もっとも、このプリモアート作品に、竹宮先生のサイン(これは印刷ではなくて直筆)が添えられているので、ファンにとっては垂涎の品らしく、あっという間に半分以上売れたのだという。
コストよりもクオリティを求める多くの愛好家にとっては、かなり魅力的な技術なのは間違いないだろう。