裕次郎の口癖は「共演女優とやらないで…」、松方弘樹に“警戒警報” 芸能界セクハラ白書
「仕事は一切なくなるよ」
もっとも、監督やプロデューサーと、あるいは大物俳優と女優の間に結ばれた肉体関係が、セクハラの結果であり、打算の産物であったかどうかを、判定するのは難しい。
だが、宍戸錠は自身の体験を小説仕立てにした『シシド 小説・日活撮影所』にこう書いている。
〈単純明快だヨ。“ヤラセテクレタラ、この役をやる”ってンだろ。女優を選ぶか女を取るか、二者択一を迫られているみたいに大袈裟に考えない方がいい。(中略)もしその役が本当に欲しいなら、仕事、女優の道を迷わず選んだ方がいい〉
シシドが交際している女優が、〈チーフ助監督に口説かれた〉ときの場面で、彼は彼女をこう突き放してみせているのだ。
女優の荻野目慶子(53)も、深作欣二監督(1930~2003)との関係について、自著『女優の夜』に記している。親切心から監督にマッサージを申し出たところ、合意がないまま肉体関係に持ち込まれ、以来、毎日のように誘われたそうで、
〈そのエネルギーを拒否すべきだっただろうか。/拒否すれば、不調和を生むだろう〉
と悩んだというのだ。
女優の仁支川(旧・西川)峰子(59)も、自分に突きつけられたのは、非常に露骨な要求だったと、こう回想する。
「ある映画の撮影現場で、私が30歳前後のときだったと思います。プロデューサーが呼んでいるといわれて部屋に行ってみると、“俺の女になれ。次は主演やらせてやるから”と言ってきたんです。“惚れた男じゃないとできませんから”と言って断ると、向こうは“それならここの仕事は一切なくなるよ”と言う。“結構です。どうぞなくしてください”と言って部屋を出ましたが、その後しっかり干されて、以後二十数年、その会社の仕事は来なかったんです。でも、応じて身を委ねる女優はたくさんいますよ。そのプロデューサーが女優を個人的に駅まで迎えに行ったのも見ていますし。断って干された女優だって大勢いると思います」
加えて、こんな経験もしたという。
「五社英雄監督の映画の製作中、飲み会の席で私と監督がいる前で、プロデューサーが大声で“監督とデキてるから、いい役につけたんじゃないか”って言ったんです。そんなわけないんですけど。監督は怒っちゃって、唇をかみしめていましたよ」
また、前出の南美川洋子が受けたのは、むしろパワハラかもしれない。
「デビューから3年、大映代表としてインドネシア映画祭に出席して帰国すると、専務がハイヤーで迎えにきて、“次回作だから明日までに読んでおきなさい”と台本を渡されました。でも脱がなければならないシーンがあったので拒絶すると、その後の会社の対応は掌を返したようになって、完全に干されてしまった。その映画は関根(現・高橋)恵子さんのデビュー作『高校生ブルース』でした」
そういう例を知っていれば、悪魔の誘いを断るのは難しいのだろう。
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