大学中退フリーターが冒険家へ化けた薄氷人生の極北

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トナカイの方が100倍

 あれこれ積み込むソリの重さは120キロ。それがゴールする時には40キロにまで減る。体重も最大で15キロは落ちる。食糧を積み過ぎると1日のペースが落ちるので、ベストな落としどころを考えるのだ。そんな道中、

「楽しみは食べることくらい。乾燥肉とかナッツとかばかりのところへ、目の前にトナカイがいたら“新鮮な肉が歩いているぞ”と思います。もう祭。ものすごくおいしい焼肉屋の肉も敵わない。トナカイの方が100倍うまいと思います」

 これまで危機は?

「死にそうになった経験は……火事ですね。07年にテントの中で火を燃やしているところにガソリンをこぼして両手に大ヤケドを負ってしまった。ただ、リスクは常にあるけれど事前に対処して回避しているので、表面的には何も起きない。危険な事ばかり起こる冒険家は言ってみれば、実力がないから。自然はこちらを慮ってブリザードを止めてはくれません」

 冒険バカとは違った謙虚さと恰(あたか)も人生訓のような危機管理意識をソリに載せ、今年は新天地の南極点を目指す。歩くこと、見ることが冒険家の原動力だ。

週刊新潮 2017年11月9日神帰月増大号掲載

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