大学中退フリーターが冒険家へ化けた薄氷人生の極北

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 歩くこと、見ること。我々の祖先は自らの身体と好奇心とで世界を拓いてきた。大学を中退したばかりのフリーター荻田泰永氏はテレビ番組で、ある冒険家を知る。好奇心を揺さぶられ、翌年すでに身体は北極近辺に。薄氷を踏むどころか、踏み外したりもした不惑の冒険家が語るその半生――。

「神奈川工科大の情報工学科を3年で中退したのが1999年春。ガソリンスタンドでアルバイトをしながら、この狭い世界から出たいと焦る気持ちが湧いてきていた。かと言ってエネルギーをどこへ向けたらいいかわからなかった中で、NHKの番組で冒険家の大場満郎さんを知った。“素人の若者を連れて北極を歩くつもりだ”と。手紙を書いたら返事がきたのです」

 とは、荻田氏ご当人。

 アウトドアも海外旅行も経験したことがなかった22歳が2000年4月、大場氏ら8名とカナダの凍った海の上を歩いていた。35日間700キロの旅である。

 そして、翌年は1人で北極を目指したが全く歩くことができなかった。「1人でやるのと誰かと一緒に行くのとではずいぶん違う」からだ。

 だからといって諦めるわけではなく、むしろ毎年のように北極へ。その距離はどんどん伸びて行った。

「最初はカルガモの子のように親の後ろにくっついて歩いていたのに、“1人で歩けている”という成長を感じる日々でした」

 北極点を目指したのは12年と14年の2度だが、いずれも途中で断念した。無補給単独徒歩での到達は易々とはいかないのである。

「世界でも1人しか成功していないからね。一応2人となってはいるけど……」

 1度目は序盤でリタイア。

「就寝中にそこらじゅうで氷のきしむ音がどどどど、きききき、ばりばりって、すごく恐ろしい。1日平均20キロ進むのですが、激しいブリザードに遭うとそっくり戻されたり。氷が割れて海に落ちたこともありました。海温はマイナス1度で寒いとは感じないけど、水から出たらマイナス35度だから凍るのがわかる。あと、シロクマにテントを揺すられたこともありますが、クマって鼻が一番敏感だから攻撃するといいですよ」

 そして2度目は、

「全体の7割までは行きましたが乱氷(氷の山)が激しい年で、それにだいぶ時間を取られてしまった」

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