「韓国軍に慰安婦」記事、証言者は山口敬之に憤り 「言っていないことを私の発言に…」【検証3】

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「彼のやり方にはとても失望している」

 もっとも、当該施設の利用実態について、元大佐はTBSの取材に対して大要、こう話している。

〈「韓国軍のために立ち上げられたが、サイゴンに彼らはあまりいなかった。保養休暇のために来ることはあってもさほど多くはなく、その売春宿は南ベトナム軍や米軍も使うようになった」〉

 その結果、山口記事ではこんな風になってしまったのだ。

〈「休息期間」でサイゴンに滞在する韓国兵の数は時期や季節によってばらつきがありました。このため、そもそもは韓国兵専用として設立された施設ですが、その数が少ない時期に、友軍の兵士も受け入れるようになっていったのです〉と都合よく利用されてしまっている。この点についても確認すると、

「それについては何も知りません。ただ、発言にはより注意すべきでした」

 と、自身の軽率さを認めたうえで、こう主張する。

「海兵隊の士官の仕事として、メディア対応も頻繁にやってきました。意図的に文脈から切り離したり、言っていないことを私の発言にしようとする人物には一度も遭遇したことがありません。私は取材の最中に何度も言いました。自分は、このことについて、自分の目や耳で確かめた情報を持っているわけではないということを。だから彼のやり方にはとても失望している。プロのジャーナリストがするとは想定外です」

 山口氏によって都合よく慰安所の証言者に仕立てあげられたフィンレイソン氏は憤るのだった。

 実は元大佐に先立って、山口氏は公文書の解釈を“補強”するため、ベトナム系米国人グエン・ゴック・ビック博士(アジア文学研究)のコメントを取っている。本来なら博士に取材を試みるところだが、博士は昨年3月、鬼籍に入っていた。従ってここでは、14年10月2日に行なわれたTBS取材の収録データと山口記事の比較で見て行く。山口記事は、

〈「犯罪や酷い行為が行われたのならば、それは日本人だろうが韓国人だろうがベトナム人だろうがアメリカ人だろうが、悪いものは悪いのです」〉でコメントを切っているが、実際の取材時には続きが大要こうある。

〈「このようなもの(当該公文書)をあなたは持っていらっしゃるわけですが、何人かの悪い奴による企みからではなく、それが実際に政府の政策であったと言えるようになるには、極めて多くの文書を調査しなければならないのは確実です。そしてそれが政策である場合、明らかにそれは許容されるべきではありません」〉

 これを素直に受け止めるなら、博士の言葉はむしろ山口氏自身に向けられていたのではなかろうか。更に悪いことに記事には、〈「韓国軍がベトナム人に対して酷い事をしたのであれば、ベトナム人はうやむやにすることは絶対にできません」〉などとあるが、博士はTBSの取材にそんなことは口にしていない。

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