柏崎刈羽原発「合格認定」で“危険”の大合唱… やりすぎ安全策に目をつぶるメディア
5層の対策
敷地内に入って、最初に目に飛び込んできたのが、高台にズラリと並んだ真新しい消防車群だ。
「原発で大きな災害が起きたら、原子炉を止め、冷却し、放射性物質を閉じ込める、という手順で安全を確保します。福島では原子炉が緊急停止して冷却するまでは設計通りでしたが、津波で全電源が失われた結果、冷却できずに爆発し、炉心溶融を招いてしまった。そこで、万が一電源が失われても原子炉を直接冷やせるように配備しました」
関係者がそう語る42台の消防車群は壮観だ。続いてほかの高台に登ると、また4台のトラックが。
「これはガスタービン発電機車。地震などで原子炉が停止したら、まず外部電源を用い、鉄塔倒壊などでそれが使えなくなれば、高台に設置した予備の直流電源に頼る。それもダメになって初めて、ガスタービン発電機車が登場しますが、これにも不具合が生じたときのために、25台の電源車が待機しています」(同)
まるでマトリョーシカのようなしつこさである。最後に海沿いに回ると、巨大な防潮堤がそそり建ち、内側に並ぶ原子炉建屋はほとんど見えないほどだ。
「この辺りの海域の津波は最大でも3・3メートルといわれてきましたが、東日本大震災を受けて計算方法が見直され、6・8メートルまで想定することになった。でも、再稼働を受け入れてもらうために13メートルの津波にも耐えられるようにしよう、という経営判断で、海抜5メートルの場所に10メートルの防潮堤を築いたのです」(同)
屋上屋を重ねるとはこのことだが、新規制基準はそんなに厳しいのか。
「そこでは5層に分けて対策が求められています」
と解説するのは、北海道大学大学院の奈良林直教授(原子炉工学)である。
「第1層が、地震などに強い設計にする。2層が、異常を検知したら核分裂反応を停止する。3層が、大口径配管が瞬時に破損しても非常用冷却設備がただちに注水して冷やす。4層が、冷却設備が機能不全に陥ったらポンプ車などを駆使し、人的措置で冷却する。そして5層が、放射性物質が外部に漏れてしまった際、住民の被曝を防ぐために避難する防災。福島では、津波対策が脆弱で3層までが機能不全に陥ったうえ、4層の対策がうまく取られなかった。その反省から、3層までの設備を強化し、4層の対策項目を、世界最高水準にまで引き上げました」
そして、こう言う。
「この基準に適合したということは、柏崎刈羽原発が非常に高い安全性を確保したことの証左です」
毎日新聞の記者は、冒頭で紹介した男性に、こうした事実を知らせたうえで談話を採るべきではなかったか。ところが、さらに男性にこう語らせているのだ。
「日本人はあの事故から何を学んだんだ」
事故の教訓はどう生かされたか。その取材は端折り、単に原発を“ディスる”ために記事を書いた、と言われても仕方ないだろう。
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