旧日本軍の潜水艦が沈めた「原爆運搬」米艦 両艦長の知られざるドラマ

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インディアナポリスは…

 対して敵の艦内はどうなっていたのか。前出の『エノラ・ゲイ』から引用することにしよう。

〈インディアナポリス号の艦上では、艦橋にいる将校の一人が、艦の行く手に月が上ったので、視界がよくなったようだと言った。艦橋の下の甲板では、数百人の人が甲板下のうだるような暑さを避けて、野天にマットレスと毛布で眠っていた〉

 将校から水兵に至るまで、伊58の接近など思いもよらなかったわけだが、魚雷の命中によって艦内は大混乱をきたす。艦尾は次第に持ち上がり、ついに600フィート以上もの船体が、太平洋の海面に逆立ち状態となる。乗員およそ1200人のうち、約900人が海に投げ出され、その大半は海中を漂流して亡くなった。サメに襲われて命を落とした乗員が多く、これは戦後の映画「ジョーズ」の製作上のヒントになったという。

 インディアナポリスが不運だったのは、原爆用のウランを積んでいたため、その動きが米軍内でも秘密とされていたことだ。艦が傾いていく際に発した救難信号さえも“日本軍の罠”と疑われ、犠牲者が増えたというのが真相である。

 沈没は7月30日午前0時14分。太平洋戦争において、米海軍最後の惨劇となったのだった。

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(下)へつづく

保阪正康(ほさか・まさやす)
1939年札幌市生まれ。2004年、一連の昭和史研究で菊池寛賞を受賞。『あの戦争は何だったのか』『崩御と即位』『日本原爆開発秘録』など著書多数。近著に『帝国軍人の弁明:エリート軍人の自伝・回想録を読む』。

週刊新潮 2017年10月12日神無月増大号掲載

特別読物「深海で今夏同時発見! 原爆運搬の米艦『インディアナポリス』vs. 潜水艦『伊58』 奇縁の両艦長が織り成した人間ドラマ――ノンフィクション作家 保阪正康」より

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