北朝鮮とアメリカ、そもそも何をめぐる対立? 日本が置かれた立場とは

国際 韓国・北朝鮮

  • ブックマーク

“脅威”の結び目

 日本にとって北朝鮮問題とは、もともと“拉致問題”であった。拉致問題が解決しなければ、日本にとっては北朝鮮問題は解決したとはいえない。15年前に、小泉政権のもとで平壌宣言が出されたが、結局、とても解決への道には程遠かった。拉致問題の解決の糸口が見つからない原因のひとつは、いまだに日本と北朝鮮の間で国交正常化がなされていないことが挙げられる。厳密な意味では、日本と北朝鮮の間では、いまだに“戦後”は終結していないのである。

 しかし、もうひとつ大きな理由がある。それは北朝鮮の金正恩による独裁体制である。この独裁体制が続く限り、北朝鮮は拉致問題の解決に本格的に乗り出すとは考えにくい。ということは、北朝鮮の独裁体制を崩壊させなければ、拉致問題の全面解決は難しい、ということになろう。

 ここからわかることはどういうことか。それは、日本とアメリカでは、そもそも北朝鮮と敵対する理由が違っていた、ということである。もともと拉致問題から始まった緊張を抱える日本と、反米国家や反米組織への核の拡散を恐れるアメリカでは、北朝鮮と対立する理由は異なっている。いうまでもなく、朝鮮半島の統一という課題をもった韓国ともまた大きく異なっている。

 しかし、これらの脅威がすべて結び合わされ、ひとつになった。アメリカがその中心にいて結び合わせたかたちである。

「日米同盟」と「米韓同盟」が存在し、それに加えて、これ以上の核拡散を認められないアメリカの戦略が存在するからだ。そして、北朝鮮が核保有するにいたって、そのこと自体が日本への脅威になってしまった。

 仮に、米朝間で現状での核保有を前提とした合意ができたとしても、それはすでに日本にとっては脅威なのである。すなわち日本にとって、拉致問題から始まったはずの北朝鮮問題は、次のふたつの事項と切り離せなくなったということだ。それは「日米同盟」と「核」である。このふたつの事柄について、我々自身の判断が問われていることになる。

 ***

(下)へつづく

佐伯啓思(さえき・けいし)
1949年生まれ。社会思想家。東京大学経済学部卒。保守主義の立場から、経済や民主主義など、さまざまな社会事象を分析。近著に『反・民主主義論』(新潮新書)がある。

週刊新潮 2017年10月12日神無月増大号掲載

特別読物「『核の傘』は日本を守ってくれない――京都大学名誉教授・佐伯啓思」より

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。