「4種類のキャラ」を自在に操る「小池百合子」の魅せ方研究――「私は最高の女優」

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 支持するにしても、批判するにしても、小池百合子・都知事&新党「希望の党」代表の“剛腕”は、認めなければならないだろう。

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 安倍首相が解散を発表した9月25日まで、誰もが解散総選挙は「安倍信任」が最大の争点だと考えていた。しかし同じ日に小池知事が代表就任発表をぶつけ、一気に「安倍vs小池」の構図に書き換えてしまった。これは全て小池氏1人の仕事だ。やはり並の政治家ではない。

 希望の党が失速すると予測する専門家は、決して少なくない。だが元国会議員秘書で、『一流の魅せ方』(大和書房)の著作がある、選挙戦略家の鈴鹿久美子氏は、「小池さんが都知事選に立候補するというニュースが流れた時、その後の大人気を予測できた人はいるでしょうか?」と問いかける。

 確かに、あの「崖から飛び降りる覚悟」の出馬を、少なからぬ有権者が最初は「無理筋だ」と受け止めていた。

 逆風でスタートした都知事選で、いつの間にか小池“候補”は強烈な風を巻き起こす存在に変貌。最後は圧倒的な強さを見せつけた。小池知事&代表を「大衆扇動家」とする声さえあるが、有権者の心を鷲掴みにする能力は、何から生まれているのだろうか。鈴鹿氏が言う。

「ご存じの通り、小池さんは日本新党で初当選して以来、新進党、自由党、保守党、保守クラブ、自民党と政界を渡り歩き、そして都知事を経て、希望の党代表に就任しました。政界渡り鳥と揶揄する人も多いですが、政治的な経験が豊富だとも言えます。何しろ新人議員の時から連立政権の誕生と瓦解を見ていますからね。更に新進党の結成では小沢一郎さんの側近を務めました。小沢さんの教育が厳しいことは有名ですが、小池さんは必死に政治家として成長しても、与党議員になれない苦しみも人一倍味わった。政治家としては桁違いの苦労人で、政治の海を必死に泳ぎ続けてきたわけです」

 その結果、小池知事&代表は、どんなタイプの政治家になったのか。鈴鹿氏は「自分がどう見られているのかを正確に把握し、目標実現のためには、どんな魅せ方が必要なのかを知り抜いた、稀代の戦略家」と評価する。

 鈴鹿氏は、人物イメージの「軽い/重い」と「温かい/冷たい」の2軸でマトリックスを作る。すると「①軽くて温かい人」、「②軽くて冷たい人」、「③重くて冷たい人」、「④重くて温かい人」という4種類のキャラクターに分けることができる。

「小池さんは92年に参議院議員として初当選し、議会に初登院する際、サファリルックで登場して話題となりました。『猛獣とか珍獣とかいらっしゃると聞いたので』という言葉をご記憶の方もいらっしゃるのではないでしょうか。これは『①軽くて温かい人』です。軽さは新人らしさ、親しみやすさをもたらします。それに新人ののびのびとした温かなイメージが加わることで、自由や躍動感という印象を与えることに成功しました」

 議員として経験を積むと、「②軽くて冷たい人」に移っていく。軽さ=親しみやすさは保ちながら、知的でクールな印象を加味するとどうなるか。有権者はテレビを見ながら「あの小池って議員は最近、しっかりしてきたな、政治家らしくなってきたな」と評価するようになるという。

「そして政治家は上がりポストのステージとして『③重くて冷たい』のイメージを最終的に作り上げます。重さは威厳、つまりリーダーシップの象徴です。冷たさは知性・権威を表す。つまり大臣や首相に求められるのが、この③のキャラクターなのです。ところが小池さんが凄いのは、最初は四面楚歌だった都知事選でいきなり『④重くて温かい人』というイメージに変身したところです。政治家は『③重くて冷たい』が最終目標のキャラクターですから、それから変貌することは、普通は無理です。でも、小池さんはやってのけた」

 この「④重くて温かい」というのは、どんな人物像を指すのか。鈴鹿氏は「生粋の大阪人で、天性の明るさが社員に慕われている、町工場の社長さんなんかが具体例ですね」と言う。つまり小池知事は選挙中、リーダーシップのイメージは保持しながらも、親しみやすさを極めて自然に、しかしながら全面に押し出したのだ。

「1分間に300字のスピードで喋ると、少しゆったり目の口調が威厳を感じさせます。小池さんは防衛相の頃、それぐらいの喋り方をしていました。ところが都知事選では、かなりの早口になっていました。これで有権者に親しみやすさを感じてほしかったのではないかと思いました。更に元知事の石原慎太郎氏が厚化粧を揶揄するなど、かなりひどい攻撃を加えてきましたが、それに真っ向から立ち向かうのではなく、口調の速さを維持しながら『あざがあるので』と柔らかく反論しました。あれは凄かったですね」

「私は旧態依然とした政治家たちからハラスメントの被害を受けました」と訴えるには、「③重くて冷たい」威厳は邪魔になる。都知事にふさわしいリーダーの風格は保ちながら、女性らしく柔らかなリーダーシップを感じさせた。更に、どこか「明るいおばちゃん」の雰囲気も身にまとい、女性有権者の強い支持を獲得してしまう。

「ところが今は希望の党代表として、自民党や民進党のリベラル勢力と戦っている状態です。いつの間にか1分間に300字のスピードに落としています。総選挙には親しみやすさより、威厳の方が大事だと判断したと考えられますが、それは極めて正しい決断です」

 小池氏は親しい関係者に「私は最高のプロデューサーで、最高の女優なのよ」と話したという。自負を感じさせても、自慢という悪印象はない。傲岸や増長という言葉とも無縁だ。10月10日の公示後は「小池百合子七変化」の幕が開く。テレビが小池一色に塗りつぶされる可能性は極めて高い。

週刊新潮WEB取材班

2017年10月5日掲載

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