「10歳女児誘拐事件」から13年 幼女愛好男が「私はまた必ずやる」の再犯予告
「10歳女児誘拐事件」
新宿から小田原へと延びる小田急小田原線の祖師ヶ谷大蔵駅。東京・世田谷区にあるこの駅で、男は取材されるのを待っていた。約束の時間より1時間以上前から。再犯予告するのを「心待ち」にしていたことが伝わってくる。その男、植木義和(60)は、かつて世間を騒然とさせた女児誘拐犯だった。
〈誘拐:47歳男、知人の10歳女児を連れ回す 千葉→沖縄と8日間〉(2004年5月16日付毎日新聞)
04年5月、植木は沖縄市内で身柄を拘束される。当時、千葉県に住んでいた彼は、近所の10歳の女児を同月7日から15日まで連れ回し、その間、沖縄に行く旅費などを稼ぐために、少女に「美人局(つつもたせ)的行為」を行わせていたとして、未成年者誘拐および恐喝の罪に問われることになった。
許されざる犯罪行為には違いなかったが、「よくある誘拐事件」のひとつとしてすぐに忘れ去られてもおかしくなかった。しかし、この事件に、新聞だけでなく、ワイドショーや週刊誌も飛びつき、世間の関心は掻(か)き立てられた。それは、〈誘拐された女児が、植木容疑者が沖縄で決めた勤務先の従業員に、「(千葉県の)家に帰りたくない」「沖縄に行こうと(植木容疑者を)誘った」などと話していた〉(前掲毎日新聞)ことが明るみに出たからだ。
47歳の男に1週間以上も連れ回されていた10歳の女児が、家に帰りたがっていなかった。しかも、沖縄に誘ったのはむしろ女児のほうだった――。
「誘拐逃避行」
この主客転倒とでも言うべき、不可解な事件に潜む「闇」に着目したノンフィクション・ライターの河合香織氏は、拘置所にいた植木との面会や手紙でのやり取りを重ね、また女児の親や、千葉や沖縄でのふたりの「痕跡」を丹念に取材。07年にノンフィクション『誘拐逃避行』(新潮社、後の文庫版では『帰りたくない―少女沖縄連れ去り事件』)にまとめる。
この作品の前半では、家庭内にさまざまな問題を抱えていた女児と、ひとり身の冴えない中年男であった植木という、ともに「不遇」な環境にあったふたりが、互いの孤独を補い合うような「甘美」なシーンが描かれる。例えば沖縄での、
〈(植木の)ひげを、めぐ(作品中での女児の仮名)は慣れない手つきで剃り始めた〉(『帰りたくない』より、以下同)
というような、「37歳差の恋人」とでも言うべき情景や、
〈「こっから一番近い泳げる海へ」/めぐが自ら運転手に話しかけていた〉
といった具合に、やはり「女児が誘拐を主導」していた面も紹介されている。それは、両者が「ここではないどこか」という楽園を求めて沖縄に辿り着いた、まさに「誘拐逃避行」と表現するしかない奇怪な「ふたり旅」の図だった。
だが、作品の後半で様相は一変する。公判が進むにつれ、「女児を不幸な環境から救い出した」と訴えていた植木の、異常な行為が炙(あぶ)り出されていくのである。
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