車の持ち主が帰ってきた! “仕事中”の窃盗犯が放った仰天の逃げ口上

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「パンツ」と「一線」の違い

 悪事が露見したときに、どう言って切り抜けるか。難しい問題である。

 見事な一言で事態を収拾させることもあれば、無理やりな論理でかえって事態を悪化させることもある。

 下着に大麻を隠していたことがバレたのに、「気づいたら入っていた」「もうパンツははかない」といった名言で、問題のベクトルを変えてしまったのは故・勝新太郎さん。怒る人もいたが、常人とは異なる発想に感動する人もいた。

 同じにしては勝さんに申し訳ないが、側溝に身を潜めて女性のスカートを覗いていた件で逮捕された男が残したとされる「生まれ変わったら『道』になりたい」という言葉も、ある意味で規格外だった。感動こそ呼ばないにしても、受け止める側に単純な怒り以外の感情をもたらしたのは間違いないだろう。

 一方で、最近の不倫疑惑における「一線は越えていない」式の弁明は共感を得られないことが多い。夜中にホテルの個室で2人きりになった時点で「アウト」というのが世間一般の常識だからである。いくら「越えていない」といっても大した意味を持たないのだ。

 両者の違いは、発想の豊かさかもしれないし、発言者の格かもしれない。

持ち主が帰ってきた

 さて、それでは自動車を盗もうとしていたら、持ち主が戻ってきた! というケースではどう言えば切り抜けられるのか。

 そんな極限の状況をとっさに切り抜けた体験を語るのは、浅井亜弓さん(仮名)。亜弓さんは、かつて裏社会で生きている人の間では、その名を知らないのはモグリと言われるほどのワルだった。特に得意とし、一時期生業としていたのが、高級車の窃盗だったという。

 彼女の半生を犯罪社会学者の廣末登氏が聞きとった労作が、『組長の妻、はじめます。 女ギャング亜弓姐さんの超ワル人生懺悔録』。シャブ中毒ぶりから、ヒットマンとの逃避行、警察とのチェイス、そして服役生活まで赤裸々に語られた同書の中では、窃盗中の現場に持ち主が戻ってきた時の仰天のエピソードも描かれている。

 なお、「そんな局面に立ち会うはずないから、そんなワルの話なんか聞きたくない」という真面目な方はこの先を読むことは決してお勧めしない。

 では、姐さんの話を聞いてみよう(以下、同書より抜粋して引用)。

 ***

 アメリカ映画に「60セカンズ」という作品がありましたが、あれは空想の世界ではありませんでした。

 もっとも、熟練した後も、さすがに60秒で盗むことは無理でしたが、数分あれば盗むことができるようになりました。その際、こそこそせずに、堂々と停めてある車に乗り込んで仕事をしていました。

 ごく稀に、持ち主が帰ってくることがあります。そこは、慌てず騒がずに、

「あんたに話があったんや。寒いから車の中で待たしてもろうたで。あんたなあ、うちのかわいい妹をキズモノにして、ただで済むと思うてたんか。今日はオトシマエつけてもらうまで帰らんからな」

 とか言いがかりをつけます。

 むろん相手は初対面ですし、何の罪もない、いわば窃盗の被害者です。だいたい怪訝な顔から、当惑顔に変わります。しかし、そこは鉄の心臓で脅しつけます。

 相手は「いや、あんた人違いや……」とか「何の話かわからん」とか一生懸命弁解します。

 私は、頃合いをみて、

「そうか、悪かったな。どうもホントに人違いみたいや」

 と、堂々と立ち去っていました。

 ***

 これを読み、「あの時の女が……」と背筋を凍らせる方もいらっしゃるだろうか。未経験の方も、まったく身に覚えのないキレ方をされた場合は、用心したほうがいいということだろう。プロの犯罪者は、こちらの想像を超えた悪知恵を持っているのだ。

 なお、亜弓さんは、服役も終え、現在は足を洗っている。その壮絶すぎる半生を語ったのは、何らかの反面教師になればという気持ちからで、決してワル自慢のためではない。深く反省しており、現在は、こうした犯罪行為を決して推奨していないのは言うまでもない。

デイリー新潮編集部

2017年9月30日掲載

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