アルツハイマーを「血液」で発症診断 脳の“病的たんぱく質”検査

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 2025年には、高齢者の5人に1人が認知症患者になるという試算もある。もはや国民にとって“運命”となりつつあるのだが、全体のおよそ7割を占める「アルツハイマー型」の早期発見に、こんな朗報が。

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 1906年、ドイツのアルツハイマー博士によって報告がなされた同病は、今なおメカニズムの全容解明に至っていない。一般的には、脳内に「アミロイドβ」というたんぱく質の老廃物が蓄積し、神経細胞を殺傷して症状が進むとされている。

 そんな中、アルツハイマーの簡易かつ至便な早期診断法を開発したのが、京都府立医科大の徳田隆彦教授らのグループである。

「アミロイドβは発症の20〜30年ほど前から患者の脳内で蓄積が始まります。これとは別に『リン酸化タウ』という病的たんぱく質があり、正常な人でも20代から脳の限られた場所に蓄積し始めて加齢とともに増え、80代以降に軽い物忘れを引き起こすことがあります。アルツハイマー患者の場合はこれにアミロイドβの蓄積が加わるため、発症の10年ほど前からリン酸化タウの蓄積が脳全体に拡散してしまう。つまり、アミロイドβは病気の引き金で、実際に神経細胞を殺すのはリン酸化タウなのです」(徳田教授)

 そこで教授らはリン酸化タウに着目し、数値を測定することで軽度認知障害(MCI)などの早期発見に繋げようと試みた。

「これまでも髄液中のリン酸化タウがバイオマーカー(病状の指標)として有用であることは解っていましたが、その採取は専門医しかできず、また頭痛や腰痛を伴うこともあって患者さんの負担が大きかったのです」(同)

 血液検査による測定が望まれていたものの、リン酸化タウの血中濃度は極小で、現実的でなかったという。

「それが昨年、米国の企業が開発した『Simoa』という最新装置を導入したことで、従来と比べて約1000倍の感度を有するようになりました。検体や試薬をセットすると自動で測定してくれるので、人的な技術の差によらず同じ結果を出せるのですが、血液中のリン酸化タウがあまりに微量なため、なかなか検出できませんでした。その後、検体の濃度や試薬の成分を調整するなど試行錯誤し、ようやく測定に成功したのです」(共同開発した建部陽嗣助教)

 わずか0・2㏄の血液採取で60〜80代の患者20人を調べ、健常者に比べてリン酸化タウが多い傾向を確認。研究成果は、4日付の英科学誌電子版に発表された。

「検査が一般に使えるようになれば、認知症診断の枠組みが変わると思います。リン酸化タウは発症より10年ほど先行するので、実用化されれば発症の7〜8年前から発症まで、つまりMCIから初期認知症までの差し迫った時期に適した検査となります。今すぐ自費診療となっても1万〜2万円でできると思いますが、我々は学術機関なのでまずは検査会社と協力することが先決。大規模な検証研究を重ね、2年後の保険内診療を目指しています」(徳田教授)

“健診でアルツ診断”が現実味を帯びてきた。

週刊新潮 2017年9月28日号掲載

特集「800万患者に朗報!早期発見から驚愕の新薬まで!! 『認知症』『アルツハイマー』最新防衛術」より

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