なぜ追い求める「インスタ映え」 識者たちが読み説くその心理

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共有しないほうが…

 今夏は、高級ホテルなどが営業する「ナイトプール」がメディアを賑わせた。ターゲットは若い女性で、彼女らは決して泳がず、照明によって幻想的な雰囲気が醸し出される異空間で、もっぱらインスタでの“思い出づくり”に精を出していた。漫画家のやくみつる氏に聞くと、

「従来、表現したり発信したりする面白さは、編集や制作に携わる者のみが知る特権でした。それがSNSが登場し、誰もが気づいてしまった。発信して世に問うのは面白いし、であれば問い方、つまりインスタ映えにもあれこれ気を遣うのは分かります」

 そう前置きした上で、

「それでも、最先端の店や話題のスポットへ行く姿を投稿する人は、背伸びして気持ち良くなっている自分を見て貰いたいのでしょう。インスタがいかに華やかでも、その裏で虚飾に満ちた生活を送るのなら共感はされません。インスタ映えを追い求めた先が、仲間と楽しそうに過ごす写真をSNSに投稿するため“仕込み役”を業者に派遣して貰う『リア充代行サービス』だったり、撮影に使った食べ物を捨ててしまったりすることなら、その程度の表現者だと侮蔑されるだけです」

 さらに、「伊良部大橋」の事故に言及して自説を展開するのは、放送プロデューサーのデーブ・スペクター氏。

「何もかもビジュアル化する世の中ですが、それは本当に必要でしょうか。プロポーズ後に写真を撮ろうとしていたのなら、その場の2人しか知り得ないロマンチックな瞬間なのだから、他人と共有しないほうが特別な記憶になるはずです」

 青年はインスタ映えを追求する風潮の犠牲者だといい、こう警鐘を鳴らす。

「世間には『全ての瞬間を記録しなければ』『撮らなければ損だ』といったプレッシャーが存在するかのようですが、果たして他人が自分の写真をそこまで見たがっているのか、と考える感覚が麻痺しています」

 撮影の手法についても、

「『自撮り棒』は現在、周囲の邪魔になったり不注意で滑って転ぶなどのトラブルが起きていますが、中には、香港やドバイの高層ビルに無断でよじ登って撮影する人までいます。テレビで流されて真似される時代ですが、実際にはテレビの場合、映らないところで大勢の人がサポートしている。それが個人の場合だとせいぜい1、2人。危険な撮影は止めて、プロに任せておいた方がいいと思います」

 冷静に弁(わきま)えれば、分かりそうなものだが……。

週刊新潮 2017年9月21日菊咲月増大号掲載

特集「『インスタ映えの名勝』に死す 『自撮り命』のメッカで落命した『プロポーズ青年』」より

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