陸海空「現役自衛官」緊急座談会 安倍総理が打ち出す“9条加憲”に意味はあるか
英訳問題
――ここで、今回の参加者で最年長、50代の航空自衛官E氏(職種:通信)が初めて口を開いた。
空自E 皆さん加憲案に否定的なようだけど、私はやっぱり憲法に自衛隊を明確に位置づけることは大事だと思っています。自衛隊合憲論の根拠の一つとされる「芦田修正」の解釈を確定し、長年の論争を決着させるという意義はある。芦田修正にも二通りの解釈があり、しかも芦田首相自身が相矛盾する説明をしていたわけだから。
陸自D そりゃ私も違憲論が消滅することは大歓迎ですよ。当たり前のことですが、私たちは自衛隊が合憲であるという前提で仕事をしているわけで、それに対して60年以上も「いや、あなたたちの存在は違憲です」と言い続ける人たちがいる。自衛官からすれば、命がけで国民を守っているはずなのに、一部の国民からは白眼視されてきたんです。戦場で後ろから弾を撃たれているのと変わりません。
海自A その通りです。「自衛隊は憲法違反だ」という声は、他のどんな武器よりも自衛隊員を傷つけてきました。まさに言葉の暴力ってヤツですよ。
空自C もちろん、その辺りの心情はここにいる全員が共有しています。ただ、現実問題として加憲案には矛盾があります。一例を挙げれば、英訳問題ですね。官邸HPに載っている憲法の英訳では、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という9条の条文は“land, sea, and air forces,〜will never be maintained”と訳されています。一方で、自衛隊の公式な英語名は“Self-Defense Forces”ですよね。つまり加憲案だと、“forces”を保持しないという条文を残しつつ、“forces”の存在を認める条文を新たに追加することになる。外国には通用しないし、却って混乱を招きませんか。
海自A いや、それは大した問題じゃないですよ。憲法の正文はあくまで日本語ですし、自衛隊の英語名だって自衛隊法で決まっているわけでもないでしょう。どちらかの英訳を変更すればいいだけで、本質的な問題ではないと思いますね。
空自C そういう場当たり的な辻褄合わせが必要になる時点でおかしいと思うんです。結局はまた言葉遊びが始まるわけで、今までと変わってないじゃないですか。やっぱり、根本的に軍隊の保持を認めない限り矛盾は解消しませんよ。9条の2を加えて自衛隊を合憲化したところで、「軍隊ではない自衛隊」という建前は変わりません。だけど、我々、現場の自衛官が感じている矛盾はむしろそこにあるんじゃないですか。
海自A 確かにそうですね……。
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(2)へつづく
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