百田尚樹氏「官僚の無責任体質」を斬る! 第7艦隊司令官電撃解任に見る「日米の差」とは
退役間近でも容赦なし
アメリカ海軍は、23日、第7艦隊のジョセフ・アーコイン司令官の解任を発表した。解任の理由は、イージス艦と一般の船舶との衝突事故が相次いだことだとされている。
こうした事故の責任を追及されること自体は不思議ではないが、北朝鮮情勢が緊迫する中であり、またアーコイン司令官は退役間近だったことを考えると、かなり厳しい処分にも見える。つい最近、責任問題を追及された防衛大臣がギリギリまで粘って閣内に留まったのと比べると、対照的である。
しかし、こうした責任追及に関する厳しさはアメリカの伝統だ、と作家の百田尚樹氏は指摘している。百田氏は新著『戦争と平和』の中で、戦時中に見られた日本人とアメリカ人、あるいは日本とアメリカの違いを比較するという試みを行なっている。戦争という極限状況下において、それぞれの長所と短所が最も極端な形であらわれる――そう百田氏は考えているのだ。
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同書の「上層部の無責任体質」という項から抜粋、引用してみよう。
「真珠湾攻撃によって、アメリカ海軍は甚大な被害を受けましたが、実はルーズベルト大統領は日本軍が先制攻撃を仕掛けてくることを知っていたのではないかとも言われています。
ただ当時は、完全に日本の『騙し討ち』だというのが、アメリカ側の立場でした。ということは、完全な奇襲ですから、アメリカ海軍側にはほとんど責任は無いようにも思えます。
しかし、ハズバンド・キンメル太平洋艦隊司令長官は真珠湾での大敗の責任を問われて、即座に解任されました。そして大将から一気に少将にまで降格されています。
それだけではありません。
戦後、随分経ってから、やはりキンメルに責任を負わせるのは気の毒ではないか、という声が挙がりました。そして半世紀以上経った2000年にはアメリカ議会でようやく名誉回復の決議が採択されます。
ところが、当時のクリントン大統領も、次のブッシュ(ジュニア)大統領も、さらにオバマ大統領までもが、その決議への署名を拒否しています。
ことほど左様に、アメリカでは上に立つ者への責任というものを重く見ており、何かあれば責任を追及した上で厳しい処分が即座に下されるのが当たり前なのです。
これを見ても、アメリカと日本の違いがわかります」
高級将校にお咎めなし
米軍と比べると、日本軍は高級士官に対してきわめて甘かった。
「多数の餓死者を出したインパール作戦の責任者の1人は、牟田口廉也陸軍中将でした。
そもそも作戦そのものが無謀極まりないものでした。多くの部下が反対しましたが、牟田口は彼らを更迭してまでこの作戦に固執し、むざむざと多くの兵士の命を失いました。
もちろん作戦は大失敗です。しかし彼はまったくその責任を取らされませんでした。司令官こそ罷免、予備役に編入されたものの、その後は陸軍予科士官学校長をつとめています」
このような例は他にいくらでもある。
「海軍の福留繁中将が南方でアメリカ軍の配下の現地ゲリラに捕らわれて捕虜になり、機密書類を奪われてしまったことがありました。
この時、軍は包囲していたゲリラへの攻撃中止と引き換えに、彼を救出します。普段、軍の上層部は下っ端の兵士たちには、『捕虜になるくらいなら死ね』と言っていたはずなのに、高級将校が捕まった場合、ゲリラへの攻撃を中止にしてまで助けているのです。福留は機密書類まで奪われたにもかかわらず、のうのうと帰って来ています。
この時、機密書類をアメリカ軍に奪われたことが、後のマリアナ沖海戦の大敗北につながったと言われています。しかし福留も一切責任を取らされず、左遷も降格もありませんでした」
官僚は責任をとらない
「日本軍の体質は、上に甘く、下には厳しい、というものでした」
『戦争と平和』で百田氏は、戦時中の日本軍の無責任体質を厳しく批判したうえで、そうした体質はいまなお残っている、という重要な指摘をしている。
「高級将校が責任を取らないという構造は、日本人の持つ大きな欠点なのです。そしてこれは悲しいことに、今も日本の官僚制度に残っているのです。
たとえばバブル崩壊や、その後の長い不況に関連して責任を問われた大蔵官僚はいません。それどころか、当時の戦犯のような官僚たちは、みな関連する業界に天下って、高給を食んでいます。内部からそれを糺す声は一切ありません。
だから彼らは安心して省益に走ります。
時には、省の権益を侵しそうな政治家を『刺す』ようなことすら平気でやります。
今もなお、個人の利益や保身を優先して、国益を考えない、下々が犠牲になることに痛痒を感じない、そういう官僚が少なからずいるように思えてなりません」
天下り問題で辞任したかと思えば、突如、政府の「不正」を糾弾する側に回った高級官僚が登場したのは記憶に新しいところ。さらにその官僚を「正義」のごとく持ち上げているのは、戦時中に戦争を煽った新聞のような……。
やはり歴史は繰り返すということなのか。