愛情と過保護の履き違えに斬りこんだ日テレの問題作(TVふうーん録)
高校3年生の夏。三日三晩遊びまくり、家に帰らなかったことがある。へとへとになって帰宅し、泥のように眠った。17時間寝た後、起きたときに母が言った。「死んだのかと思って、途中で息してるか確かめたわよ(笑)」と。三日三晩帰らなかった娘を咎めるでもなく、笑い飛ばした母。うちは超放任主義で個人主義だなと思ったし、信用されていると痛感した。18歳で。
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おかげで、親子関係に関しては極端にドライだ。親と子は独立・自立し、別居・別生計・別人生が当たり前と思っているのだが、今はそういうご時世じゃないんだね。いつまでも一緒に暮らし、干渉し合って、互いに寄りかかっていくのを愛とか絆とか呼ぶらしい
と思ってたら最高の問題作が。「過保護のカホコ」である。全体的に愛と絆と家族礼賛を謳うドラマが多い日テレが、まさかのアンチテーゼ作をぶちこんだ?
主役は、朝ひとりで起きられない、着る服も選べない、通学は車での送迎つき、バイト経験もなく、友達もいない大学生の娘・カホコ。演じるのは高畑充希。高畑の天衣無縫な演技がすんばらしすぎて「え? 脳機能に問題を抱えるヒロインなの?」と心配してしまうほど。かなり極端に過保護の箱入り娘という設定なのだ。
娘に愛情を注いでいるつもりが完全に毒親化し、娘の主語も人生も奪ってしまっているのが、母・黒木瞳。黒木はこの手の厄介な役のときに限って、水を得た魚のように生き生きとするね。
そして、優しさとお金だけが要求される父親が時任三郎。親バカではなくバカ親。さらには親戚一同も、よってたかって高畑を甘やかす。
が、高畑が大学で竹内涼真と出会ったことで、化学変化が起きていく。母に捨てられ、施設で育った苦学生の竹内は、まっとうな感覚と社会性をもった人物だ。距離が近すぎる親族の異様さを指摘し、うっかり高畑の自立を促すハメに。第三者の介入が家族の問題点を浮き彫りにし、風穴を空けていく作りが面白いし、現実的とも。介護と同じだね。
黒木の実家の面々を見れば、主に子離れできない親に自覚をもたせる物語だ。子から主語を奪ってきた親に反省を促す物語とも言える。黒木の母・三田佳子が「愛するより信じるほうが難しい」と説き、娘に子離れを促す役割を果たす。
逆に、時任の実家の構図を見ると、老親に甘え倒す妹(濱田マリ)がいる。こっちは親離れが問題なのだ。
距離が近すぎる家族の問題点を、ぎゅっと凝縮して煮凝(にこご)りのように固めた、いいホームドラマだなと思う。高畑の熱演が日テレらしい家族愛へ向かいそうで不安ではあるが、最後は、愛や絆という呪縛の言葉でうやむやにせず、問題に向き合って斬りこんでほしいなぁ。
三田が余命幾許(いくばく)というのは、人が死ぬのが大好きな遊川和彦脚本らしい。しかし、彼の作品は終盤であっけなくそっけなく尻つぼみになる悪い癖も。過干渉からの卒業、なんなら家族解散でもいいから、親と子の適切な距離感を示してほしいんだけどな。終盤に多大な期待を寄せて観ている。