昔はGHQ、今は官邸…… 吉田茂と安倍晋三に共通する「忖度政治」
“首筋への熱い息”
この統治手法を厳しく批判したのが設立間もない外人記者クラブの一部の特派員だった。朝鮮戦争の報道でピューリッツアー賞を受賞したシカゴ・デイリー・ニュース記者のカイズ・ビーチは回顧録でこう述べている。
「私が思うにマッカーサーが犯した最も重大な罪、それは日本政府が自ら改革を行っているという神話を作った事だった。どういう意図だったかは別にして、これは皮肉の極みである。日本の国会は相次いで改革を制定したが常にその首筋には(GHQの)熱い息を感じていた」(「トーキョー・アンド・ポインツ・イースト」)
英国のBBCの特派員として来日したジョン・モリスも著書で振り返っていた。
「マッカーサーは疑いようもなく支配的な性格と感情を備えていたが、他の傑出した人物と同じく彼は批判に対して我慢できず、その結果、極度にゴマすりの参謀に囲まれていた」(「ザ・フェニックス・カップ」)
表向きは日本政府が自主的に民主化を行った事になっているが、その一挙手一投足はGHQの監視下にあった。頂点に君臨するのが一切の批判を許さないマッカーサーで、その配下のゴマすりの参謀が実務を担った。彼らは人事すなわち生殺与奪の権を握り、気に入らなければ総選挙に勝って首相指名直前だった鳩山一郎すら公職追放にした。
そして絶対権力が現れた時、政治家や官僚はその意向を探ろうとし、命じられる前に行動を起こし、進んで忠誠を示した、すなわち忖度をしたのだった。“首筋への熱い息”というビーチの指摘はけだし至言で、いわば一種の独裁制の下で民主主義を導入したのが、あの時代の抱えた不幸な矛盾であった。
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