中国の「軍拡路線」が加速する!「ポスト習」体制でも「暴力依存」が続くワケ
今秋の中国共産党第19回党大会で、習近平国家主席(64)の最側近の一人として知られる陳敏爾(ちん・びんじ)重慶市党委書記(56)が、政治局常務委員会に入る人事が内定したと、28日、毎日新聞が報じた。
政治局常務委員会は、習近平を含む7人で構成される中国の最高指導機関。陳敏爾がメンバー入りを果たすとすれば、事実上、5年後に任期を終える習近平の後継者に決まったものと考えられる。
はたして、「ポスト習近平」の決定は、日本の安全保障にどのような影響を及ぼすのか? 長年にわたり人民解放軍の研究を続け、中国の政軍関係に詳しい阿南友亮・東北大学大学院教授に話を聞いた。
――陳敏爾が「ポスト習近平」に決まったと聞いたときの感想は?
その報道が本当だとすれば、中央委員からの2段飛びの大抜擢ですが、陳敏爾は党中央での経験がまだ不充分なので、必然的に習近平を後ろ盾として頼りにせねばならないでしょう。したがって、仮に5年後に政権運営を引き継いだとしても、習近平政権の内政・外交路線から大きく逸脱する可能性は低いと思われます。
また、陳敏爾は軍歴を持っていないので、現在の軍拡路線が継続するものと思われます。
――軍歴がないのに、軍拡をするのですか?
逆説的に聞こえるかも知れませんが、中国は軍歴を持たない指導者の方が、軍拡が進みやすい政治構造を有しているのです。実際、軍歴を持たない習近平政権のもとで、中国の軍拡は加速しました。
拙著『中国はなぜ軍拡を続けるのか』(新潮選書)でも分析した通り、中国を統治するには、軍を掌握することが必要不可欠です。軍歴のない指導者が、軍を味方にしようと思えば利益を供与するしかない。つまり多額の予算を付けて、軍拡するしかないということになります
この傾向が明らかになったのは、江沢民の時代からです。軍歴を持たず権力基盤が弱かった江沢民は、軍にお金を渡すことで、自らの地位を守ろうとしました。江沢民政権下で中国の軍事予算は飛躍的な増大を遂げました。
逆に、共産党の第二野戦軍の指導者として輝かしい軍功を誇っていたトウ小平は、軍との太いパイプを巧みに活用して、解放軍のリストラを敢行し、経済成長優先路線に道筋を付けることができました。
――国家主席になっても、軍には気を遣わないといけないのですか?
国家主席という地位は、一党独裁体制下にある中国ではさほど重要な意味を持ちません。むしろ共産党の中央委員会総書記の地位の方が重要ですし、さらに言えば、共産党の中央軍事委員会主席のポストこそが、中国では最高権力者であることを意味しているのです。
たとえば、1980年代は、国家主席は李先念や楊尚昆、総書記は胡耀邦や趙紫陽が務めましたが、実際に最高権力を握っていたのは中央軍事委員会主席であったトウ小平でした。
よって、5年後に陳敏爾が国家主席のポストに就いたとしても、その時に誰が中央軍事委員会主席の地位にいるのかを注視する必要があります。もし習近平がそのまま中央軍事委員会主席に居座り続けるようであれば、権力移行は完了していないことになります。
――中国の軍拡がこのまま続くとすれば、日本はどうすればいいのでしょうか?
非常に難しい問題です。ただ一つはっきりしているのは、「中国政府への安心供与を続け、経済的互恵関係を深めていけば、日中関係は安定する」という楽観的な見通しは、もはや通用しないということです。
拙著でも指摘した通り、中国が軍拡を続ける原因は、日本の外交姿勢にあるのではなく、もっぱら中国の内政事情、つまり一党独裁の「暴力依存」構造にあるのです。
天安門事件以降、すでに25年以上も日本は基本的に対中宥和政策を取り続けてきました。経済的相互依存も飛躍的に深まり、中国に大きな利益をもたらしましたが、日中関係は好転するどころか悪化の一途をたどり、中国の軍拡はますます加速している状況です。
また、ノーベル平和賞に選ばれた劉暁波さんが軟禁されたまま無念の死を迎えたことに象徴されるように、中国の民主化が進む気配も一切ありません。
このような事実に鑑みれば、日本の対中政策が見直しを余儀なくされているといえます。まずは中国の現状を正しく認識し、そこから新たな対中政策を組み立てる必要があるでしょう。