すい臓がん、乳がん、アルツを早期発見 確率95%超「マイクロRNA」を体験してみた
実用化への動き
たんぱく質の作成に関わる遺伝子を制御する働きを持つマイクロRNAは、ほぼ全ての細胞から分泌され、2588種類存在する。細胞は、マイクロRNAを「エクソソーム」という直径100ナノメートル(1000万分の1メートル)ほどの脂質でできた小袋に入れて血液中に放つため、がん細胞に特有のものを測定することで、早期発見へとつながるわけだ。
プロジェクトの研究開発責任者を務める、同センター研究所分子細胞治療研究分野の落谷孝広・主任分野長が言う。
「スタートから約3年半。4万ほどの検体を解析し、各がんに特有のマイクロRNAの特定を完了しました。センターの研究倫理審査委員会が実施を許可したことで、8月から臨床研究の運びとなったのです」
肺がんや大腸、胃、すい臓に乳がんまでを一度の検査で網羅的に発見するシステムが、いよいよ最終段階を迎えたわけである。
「がん患者を検査して何人発見できるかという指標を『感度』と呼びます。現在は13種全てで感度が95%を超えており、中でも乳がんについては97%と画期的な数字です。一方、がんでない人を正しく診断する『特異度』は83%ほど。健常者100人中17人をがんと診断してしまうことになりますが、これはポリープなど良性疾患の検体数が不足しており、また保存血液を使ってマイクロRNAが時間経過で変質した可能性もある。臨床実験では新鮮な血液が用いられるので、改善の余地は大いにあります」(同)
実用化された暁には、
「参画している企業の試算では、2万円程度で検査が受けられるようになり、大腸がんであれば発見から根治までの費用は10万円で済むとの見通しです。これは最初の検査で2万、内視鏡での手術や生体検査で2万、術後3年間は年一度の検査で計6万という内訳です」(同)
病巣の発見が遅ければ、医療費は天井知らずである。
「大腸がんのステージ3で転移もある場合、治療には1200万円かかるといわれていますが、開発中の検査で早期発見ならば100分の1以下で済みます。今後は13種類について3400検体の臨床研究を行います。これには2年かかる見通しで、さらに企業がマイクロRNAを読み取るチップを開発する期間も合わせ、早ければ3年以内に人間ドックなどに組み込んで使用する『体外診断薬』として、厚労省に申請できるよう目指しています」(同)
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