笑福亭鶴瓶の知られざる顔(2) リスナーの親と大ゲンカ
前回に続いて、「柔和な人懐っこい鶴瓶さん」ではない、笑福亭鶴瓶の知られざる一面を示すエピソードを『笑福亭鶴瓶論』から紹介しよう。
デビュー4年目、鶴瓶は東海ラジオの『ミッドナイト東海』のメインパーソナリティに抜擢された。この番組終盤の15分から20分に「四畳半のコーナー」という企画があった。ブースに直接電話をつなぎ、リスナーとしゃべるコーナーだ。「事件」はこのコーナーで起きた……(以下、『笑福亭鶴瓶論』より抜粋、引用)。
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中学生の悩み相談が……
夏休み明けの1週目に一人の中学生から電話がかかってきた。
「本当は地元の中学にずっと行きたかったのに、9月の中ごろから高知の全寮制の学校に行かされる」
そんな真剣な悩みを吐露された。
「なんで?」
鶴瓶もまた真剣に耳を傾ける。聞けば医者である父親が、息子を医者にするために嫌がる息子の言うことを聞かずに全寮制の学校に入れるのだという。息子は医者にはなりたくもなかった。
「それやったら……」
鶴瓶が言いかけると、中学生は慌てた様子で「あッ、ゴメン、切る」と言う。
「なんで切るねん、お前からかけてきたやんか」
「親父がいま部屋に入ってきたから……」
思わぬ展開にさすがの鶴瓶も尻込みをしたが、ここで頼りないパーソナリティと思われるのは嫌だった。
「だったら、お父さんと代われ」
正直、言葉とは裏腹にこのまま切ってほしいとも思った。「コテンパンにやられたらどうしよう……」。
内心はそんな風に怯えながらも、弱みを見せたくないから強く出てきた質(たち)がここでも顔をのぞかせたのだ。
「誰だ、お前は」
無情にも電話口には最初からケンカ腰の父親の声。
「ごめんなさい、これラジオなんですよ」
まずは下手に出て鶴瓶は状況を説明した。
「おたくの息子さんが、いま学校のことで悩んでいて、こうやって電話をかけてくれて、ぼくが中に入るのもアレやから、もう電話を切ります。
さっき、お話を聞いたんですけど、今からしゃべったってください」
アホンダラァ!
だが、話の通じる相手ではなかった。
「おまえに指図されることない!」
「それはそうですけど……」と鶴瓶が低姿勢のまま、息子が悩んでいる状況を伝えていくと、それを父親は遮った。
「お前、どこの大学や?」
「いや、京都産業大学の中退」
「そんなやつにそんなことを言われてもなぁ」
人を見下した態度にいよいよ鶴瓶の堪忍袋の緒が切れた。
「なにぬかしとんねん、アホンダラ!」
こうなると止まらない。
「おまえな、自分とこの子供の精神的な病気もよう治さんと、なに他人の体を診とんねん、コラァ! アホンダラ、こっちは生放送やっとんねん。いつでも来い、コラァ!」
挙句の果てに最後には病院の実名をあげて
「千種(ちぐさ)区の○○病院には行くな!」
と絶叫してしまった。
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この一件で鶴瓶は降板を覚悟し、実際、降板を前提に話が進められていたが、このケンカを聴き「こいつは本気だ」と感じた中・高校生を中心とする投書と署名によって救われたのである。