グリ森「キツネ目の男」はおとり役だった? 公開されなかった“モンタージュ写真”
グリコ・森永事件で地を這った「大阪府警捜査一課」特殊班(下)
2000年に完全時効が成立した「グリコ・森永事件」の知られざる秘話を、現職を退いた刑事らが明かす。犯人グループの1人とされ、事件の“顔”とされる「キツネ目の男」は、84年6月の「丸大食品脅迫事件」の現金受け渡し現場に姿を現した。職質するか、待って現行犯逮捕に踏み切るか――リーダー役の捜査員は、“追尾すればアジトを突き止められるかもしれない”との判断から、現場の捜査員の職質を却下したという。結果、男を見失い、大阪府警捜査一課特殊班は非難を浴びることとなった。
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〈グリコ・森永事件とは〉
84年3月18日、「江崎グリコ」社長の江崎勝久氏が3人組の男に誘拐された。犯人は身代金10億円と金塊100キロを要求したが、江崎社長は監禁されていた倉庫から自力で脱出。「かい人21面相」を名乗る犯人はグリコだけではなく丸大食品、森永製菓など食品会社を次々と脅迫。《どくいり きけん たべたら 死ぬで》と書かれた青酸入りの菓子をスーパーなどにばら撒き、国民をパニックに陥れる一方で、警察やマスコミには挑戦状を送りつけ、「劇場型犯罪」と言われた。翌年1月10日には犯人の1人とされる「キツネ目の男」の似顔絵が公開されたが、同年8月に送った挑戦状で犯行終結を宣言。94年に江崎社長誘拐事件が時効を迎え、00年2月13日午前0時には、警察庁広域重要指定114号「グリコ・森永事件」の完全時効が成立した。
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通称「F(エフ)」。英語でキツネを意味するFOXの頭文字を取って、捜査員たちから、そう呼ばれた「キツネ目の男」。その似顔絵が作られたのは、目撃された日の翌日のことだ。
「Fを見た7人の中に、絵心がある者がいたので、まず、その捜査員が1人で記憶を頼りに絵にしました。それを各人が見て、自分の印象を言い、手直しするわけです。みんなでまとまって作らなかったのは、他の捜査員の意見や主張に左右されるのを防ぐため。似ているかどうかという点については、これはもう太鼓判を押してもいい。点数を付ければ90点以上になると自負しています」(似顔絵の作成に関わった捜査員)
これが、のちに公開され、手配画像としては日本の犯罪史上もっとも有名な似顔絵の一つとなる。だが似顔絵以外に、実はモンタージュ写真が作成されていたことを知る人は少ない。特殊班捜査幹部の1人は、
「モンタージュを作成したのは、似顔絵を作ってから、しばらく経った頃です」
とし、こう明かす。
「よりリアルにFの顔を再現できないかという捜査本部の要望に応える形で試作されました。7人の捜査員それぞれが自分の印象をもとに個別に作成。つまり、7枚のモンタージュ写真が作られたわけです。本部としては、ある程度似たような顔になるのではと期待したようですが、結果はばらばら、まったくの別人だった。Fが7人になってしまったのです」
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