続くトランプの日本叩き…戦後の日本を支えた「対米ロビイスト」に学べ

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中曽根首相にも

 戦争直後から80年代の貿易摩擦まで一貫して日米関係の黒子役を演じた自負が感じられるが、この頃、菅原はかねて親交のあった中曽根康弘首相にも米政界の動きを届けている。こうした彼の役割を今のトヨタはどう見ているのか。同社に問い合わせると、かなり古い話なので菅原の書簡はもう保管されていないとの回答だった。「色々なご意見を戴いた方の中のお一人という事だったのでは」(広報部)として、これ以上の詳細は分からないという。

 すでに関係者の多くも亡くなっており、彼らにとっては過去の歴史の一ページに過ぎないのだろう。その菅原は最晩年の1987年11月、生まれて初めて父の故郷の宮城県を訪れて先祖の墓参りをすると、まるで安心したかのように翌年9月、生涯を閉じたのだった。先の読売新聞のインタビューで彼はこう語っている。

「いまの日本人は、昔話と片付けるだろう。だが、日本の暗黒時代、多くの親日米人が犠牲的な努力を払った事実は、忘れないでもらいたい」(1984年2月29日付け)

 敗戦から復興と高度経済成長を通ってトヨタは世界有数の自動車メーカーへと成長してきた。際立った存在感は貿易摩擦など数々の軋轢も生み、今回のトランプ大統領の批判はその延長戦とも言える。その意味でトヨタは大きい故に目立つとの菅原の警告は予言的ですらあった。

 今回のトランプ発言を受けてトヨタは今後米国でのロビイング活動を強化すべきとの声もある。だが単に札びらを切って著名弁護士や大物ロビイストを雇っても格好の金づるにされるのがおちだ。いざという時に商売を超えて、まるで衝動に突き動かされるように助けてくれる真の友人はいるか。それこそが今の米国と対峙する上での最高の武器だろう。

徳本栄一郎(とくもとえいいちろう) 1963年佐賀県生まれ。英国ロイター通信特派員を経て、ジャーナリストとして活躍。国際政治・経済を主なテーマに取材活動を続けている。ノンフィクションの著書は『角栄失脚 歪められた真実』(光文社)、『1945 日本占領』(新潮社)等多数、小説に『臨界』(新潮社)がある。

週刊新潮 2017年5月4・11日ゴールデンウイーク特大号掲載

特別読物「全社員必読! 大物密使の極秘書官公開!! 『トヨタ』の先達は米国圧力になぜ打ち克てたのか」より

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