毒蛇に素手で挑んだ「ヤマカガシ少年」 大人たちの郷愁を誘う逞しさ

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 夏である。夏休みも真っ盛り。日がな野山を駆け回り、虫や獣と格闘する少年なんて、今や昔の感があるが、そんな折、驚きのワイルドボーイが現れた。毒蛇に素手で挑んだ「ヤマカガシ少年」の逞しさは、昔は子どもだったすべての大人たちの郷愁を誘っている。

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〈腕白でもいい 逞しく育ってほしい〉

 そんなCMが流行ったのは40年以上前のことだが、今やその言葉は死語に近い。

 折角の夏休みなのに「塾だ」「習い事だ」とやたらと忙しいのが最近の小学生だ。「熱中症」の危険も喧伝され、先生からは「夏は外に出ちゃいけません」なんて“お触れ”が出る始末。危険過敏症の世の中では、「危ないから」と、虫にすら触れない子どもも散見される。「気持ち悪い」というクレームが相次ぎ、ジャポニカ学習帳の表紙から昆虫の写真が消えた、なんて騒動も記憶に新しい。

 そんな時代に、仰天するような事件が起きたのは7月29日。舞台は、兵庫県東部の伊丹市である。

 秋田の山村で生まれ育ち、『釣りキチ三平』で知られる漫画家の矢口高雄氏(77)が、

「あのニュースを聞いてね、僕は“今どきの子どもたちも、こういう冒険の仕方をするのか”と驚きました」

 と目を白黒させる“事件”。

 登場人物は、伊丹市内に住む小学5年生の「少年」(10)と、すぐ近くに住む同じく小5の「友人」だ。

「ヘビを飼いたい……」

 もともと虫や動物好きだった少年はその思いが募り、7月29日、友人と家から3キロほど北、宝塚市内の宝教寺下へと自転車とキックボードをかっ飛ばした。この寺は山の中腹に位置し、参道に入ると辺りは鬱蒼とした山林、下には谷川が見える。

 近所の住民によれば、

「夏になると小学生がぎょうさん来はりますよ。川で泳ぐんですわ。ヘビなんて山ほどいて、どこでとぐろを巻いているかわからない」

 言わば「ヘビの名所」のこの参道で10時半頃、少年は狙い通りの獲物を捕獲。その際、左の人差し指を咬まれたが、そのままそれを友人のリュックに収めている。

 自宅への帰路、少年は近所の公園に寄り、出血が続く傷口を洗った。そして友人の家に落ち着き、待ち望んだペットを可愛がろうとリュックから取り出した時、今度は右手首を咬まれている。時刻は13時頃だった。

 それから7時間程経った20時近く、伊丹市の消防局に、少年の母から119番があった。

「“息子がヘビに咬まれた”“ハブではないと言っている”と」(市消防局)

 程なく救急車が少年宅を訪れ、尼崎市内の病院に搬送した。少年はひどい頭痛を訴え、手の出血も止まらなかった。

 ヘビの外見から、「少年」が咬まれたのはヤマカガシと見られた。

「体長は60センチくらい。グレーで、舌をチョロンチョロンと出していました」(ヘビを預かった伊丹署)

 そこで毒の抗体、血清を打ち、ようやく少年の症状は治まった。しかし、その間、一時は意識も失うなど、まさに少年は生死の境を彷徨(さまよ)う体験をした。

「ヤマカガシは、日本の固有種で、青大将やシマヘビと同じくらいよく見かけるヘビです」

 と説明するのは、国内最大級の爬虫類動物園「iZoo」の白輪剛史・園長である。

「ただ、臆病で自分から人間に襲い掛かったりしないため、被害例はほとんど見られません。しかし毒性はマムシの3倍、ハブの10倍と非常に強い。毒は血液を凝固させるため、咬まれた痛みはそれほどありませんが、血栓を作り、脳梗塞や腎不全を起こしやすい。このお子さんも血栓で脳に血が回らなくなり、意識がなくなったのだと思います。また、血液凝固の機能がどんどん使われてしまうから、逆に出血が止まらなくなることもある」

 好物はカエル。ヒキガエルさえ呑み込む“悪食”で知られ、過去に人を殺(あや)めた例も4件あるという。

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