頻発する家庭内殺人「子どもに殺される前に子どもを殺して」と願う親たち

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 殺人事件摘発件数のうち、55%が親族間で起こっていることをご存じだろうか。警察庁のまとめによると、親族間で起きた暴行事件容疑の摘発件数はこの10年で4倍近く、傷害容疑は2倍近くになったという。

 例えば、26歳の男性が神戸市北区で祖父母と母親、近所の女性2人をバットや包丁で襲った事件。滋賀県近江八幡市で起こった、精神疾患を患っていた33歳の娘を監禁し死亡させた疑いで父母が逮捕された事件。福岡県須恵町で、41歳の母親が4人の子どもに手をかけた事件(※心神喪失を理由に不起訴)など、確かに家族間での殺人、暴力事件は後を絶たない。そうした家族間の事件の原因として、精神疾患など障害や、長期にわたるひきこもりがあげられるケースも多い。

 大阪大准教授の蔭山正子氏は、読売新聞(4月20日朝刊)で精神疾患が原因となった家庭内事件についてコメントし、「早期の対処や治療が大切だが、精神障害者は家にひきこもることが多く、自分からは出向けない。精神障害者の4分の3が治療につながっていないとの指摘もあるほどだ」と解説している。つまり、家族や周囲の人々が積極的に声を上げない限り、その存在すらも明るみに出ないことがほとんど、というのが現状なのである。

子供を殺してくれませんか

 このように、本人や周囲に病気であるという認識が乏しく、医療につながれていないことも多い精神病患者。その問題にいち早く相対してきたのが、株式会社トキワ精神保健事務所の押川剛氏である。押川氏は精神障害者移送サービスという、強制拘束を否定し対話と説得によって患者を医療につなげるスタイルを確立し、これまでに千人を超える患者と向き合ってきた。著作「『子どもを殺してください』という親たち」で、精神障害者と家族の関わり方について、このように述べている(以下「 」同書より抜粋、引用)。

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「『子供を殺してくれませんか』

 これは子どもの暴力や暴言に悩んだあげく、私のところへ相談に来た親たちの言葉です。そんな馬鹿な、と思われる方もいるかもしれませんが、真実です。他にも『子供が死んでくれたら』『事故にでも遭ってくれたら』『もう自分たちが子供を殺すしかない』などという訴えも聞きます」

 衝撃的な言葉の数々だが、どれも押川氏が実際に耳にした言葉だ。切実な家族の叫びに聞こえるが、その家族にこそ、やるべきことがあると押川氏は訴える。

「私が一番に申し上げたいのは、『家族も治療者の一人であるという自覚を持つ』ということです。家族の決断や支えなくし、患者の回復はありません。

 子供の問題行動に悩まされ、『親子の縁を切る』と言葉にするのは簡単ですが、今までと同じ生活を続けながらそれを行う手立てはありません。

 家族である以上、この問題からは容易に逃れることはできません。何も見ないふりをして、ずるずると先延ばしにするか、黙って耐えるか、あるいは正面切って向き合うか。決断するのもまた、家族でしかないのです」

殺すか殺されるかという「命」のやりとり

 同書は同名で漫画化もされており、第1話には、荒井慎介(仮名・21歳)という統合失調症患者が登場する。エリート一族として生まれた彼が、その病に冒され、親からも見放され、暴力事件を起こし、医療刑務所に収監され、出所後は精神科病院に入り、自らが作り上げた妄想の世界で生きる様子が描かれている。

 8月9日に刊行された、同コミックスの第1巻のあとがきで、押川氏は、「この漫画を読む読者は、どんな人なんだろうか。興味本位や怖いもの見たさだろうか。それも悪くない。だが、どうか「コワイ」で終わらせずに、これからの精神保健福祉分野がどうあるべきなのか考えてみてほしい」と想いを語る。

 その上で「俺が伝えたいのは、本当に症状の重い方ほど、医療や福祉のケアが行き届いていない現状があるということだ。支える家族も疲弊しきっており、殺すか殺されるかという『命』のやりとりにまで達している。世間では、認知症含め障害にまつわる家族間事件も多発している。だが、事件化するほどヘビーな家族の問題に限って、家の中に隠され、一般の人は真実を知りようもない。社会問題化する以前に、『実態』を知ってもらう必要があるのだ」と訴える。

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 決して遠い世界の出来事ではない、精神障害。よもや「子どもを殺してください」と言うような事態になる前に、今一度自らの家庭を振り返り、場合によっては早急に第三者に向かってSOSを発することをおすすめする。

デイリー新潮編集部

2017年8月10日掲載

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