社会問題化する「高齢ドライバー」事故、家族に責任も ベテランほど過信
“認知症対策”も不十分
このように、誰にも幸せをもたらさない高齢ドライバー事故を防ぐにあたり、今年3月、改正道路交通法が施行された。具体的には75歳以上の人が免許を更新する際、認知機能検査で「認知症の恐れ」と判定された場合は医師による診察が義務付けられ、認知症と診断された人は免許が取り消されるようになった。しかし、東京慈恵会医科大学の繁田(しげた)雅弘教授(精神医学)は、
「道路交通法が改正されましたが、主に診断できるのはアルツハイマー型の認知症であり、レビー小体型、前頭側頭型、血管性の認知症は見逃されています」
と、懸念する。
「そうは言っても、3~4種類の認知症を鑑別するだけでも専門性が高く、現実問題として専門医が全く足りません。そこで大事になるのは、かかりつけ医が免許の自主返納を勧めることです。とりわけ認知症が軽い場合は、専門医でさえ診断は容易ではありません。ですから、かかりつけ医が、『運転に一度でも老化を感じたことがあるなら、事故を起こす前に自主返納したほうがよい』と患者に伝えるべきです。認知症と診断されてしまうと、免許は『失効』となり、自主返納の場合の特典も受けられません。自分の大切な患者に事故を起こさせたくないと説明し、患者本人と一緒に自主返納について考えるのが、かかりつけ医の仕事だと考えます」
繁田教授が指摘するように認知症と診断され、あるいは高木ブーさんが当初考えていたように免許更新期限が来ても更新せずに免許を「失う」場合、自主返納に伴う特典の恩恵にはあずかれない。この点を考慮すると、殺人ドライバーになる恐怖に日々、おびえるくらいなら、早めに自主返納したほうが「得」とも言えるのだ。
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