一番近くて一番遠い“家族”を描くクドカン(TVふうーん録)
友達と一緒にいても寂しいときがある。結婚していても孤独を感じるときがある。共感してくれる人が日本に数百人はいると思っていたのだが、脚本家の宮藤官九郎がそのひとりだとわかって、妙に嬉しかった。
「ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編」(2日&9日放送・日テレ)が、まさに「友情の思い違い」と「家庭内孤独」を描いていたからだ。
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昨年放映した連ドラのスペシャル版で、悩めるゆとり世代の「その後」を映し出す。主演はあえて4人と書く。脱サラして結婚し、家業を継いだ岡田将生。優秀な営業ウーマンだったが、岡田との結婚を機に家庭に入った安藤サクラ。小学校教員の松坂桃李。風俗店のキャッチだったが、11浪して大学生になった柳楽優弥。
紆余曲折があって仲良くなったはずの4人だが、それぞれの生活に精一杯で没交渉。岡田の実家はモノレール建設計画による立退きで、3億5000万円も入ると判明。一家は浮かれまくる。家業の酒造はうまくいかず、廃業の危機に悩む。
松坂は担任から学年主任に昇進するも、年輩の問題教師(小松和重)に悩まされ、好きな女(吉岡里帆)からも嘘をつかれ、ほぼ鬱状態。大学生の柳楽は早くも就職活動を始めるが、無駄に人生経験豊富なために組織の下っ端が雑魚(ざこ)に見える。
同じゆとり世代、それぞれの仕事や状況を理解し合っていたつもりが、実は何ひとつわかっていなかったという皮肉。久々の再会なのに、岡田と松坂は大喧嘩。隣の芝生は青く見えるのだ。
今回、岡田は相当な無神経夫という役どころ。このくだり、全国の妻や嫁が膝を打ちまくるほど、珠玉の言霊(ことだま)だったので触れておく。
安藤は岡田の実家(坂間家)に同居。妊娠しているのに、岡田はまったく気づかない。安藤の誕生日すら忘れるほど、自分の再就職と家業の行く末で手一杯だ。安藤は夫婦ふたりきりになりたいのに、家族どころか従業員も出入りする実家では、機会をことごとく逃している。この安藤の心境を最も理解していたのが夫の岡田ではなく松坂なのだ。「家庭って思ってるのは坂間君(岡田)だけだから。茜ちゃん(安藤)にとって坂間家は家族じゃなくて社会だから。だってそうでしょ、全員他人なんだから。会社と一緒だよ」という松坂のセリフには痺れたね。配偶者というだけで同居しても、結局は他人の家。結婚して家庭に入っても、どれだけの孤独を噛みしめていたことか。「他人の家で飼い殺し」とも言い切った松坂に、女性だけでなく、妻の実家に暮らす男性も大きな拍手を送ったのではなかろうか。
友人同士や夫婦間における「超些末だけどデリケートな齟齬(そご)」を炙(あぶ)り出すのがホントうまいんだよねぇ。
ちなみに、柳楽の中国人妻・瑛蓮は無愛想かつ辛辣に文句を吐く(夫にも、日本という国にも)。彼女は劇中のコミカル香辛料だが、「こんな風に吐けたらどんだけラクか」という、既婚者の不満と嘆き節を代弁する偶像的存在でもあるのだ。
金かけなくてもいいから、こういうドラマを民放各局にぜひ作ってほしい。頼む。