「大家族」ドキュメント番組の裏で起こった惨劇 『検索禁止』著者が明かす秘話
突然豹変した父
ある地方の大家族の夕食風景。
そこには本来いるはずの高校生の長女の姿がなかった。穏やかそうな父親が、兄弟たちに聞くと、テレビに出たくないからと部屋に閉じこもっているという。
「みんな出るって約束したのにな」
そう言って父は娘のいる子供部屋に向かった。ドアを開けると、ふてくされた長女が机に向かって座っている。なぜ食事に来ないのか、父が尋ねると、
「テレビに出たくないから」
突然、父は豹変し、娘に平手打ちを浴びせた。それも2発、3発と。
さらに長女を殴り始めた父をスタッフは制止しようとするが、止まらない。
娘は必死に許しを請うが、父親は容赦しない。彼女の服が破けても、暴行は続けられた。
再びスタッフが止めに入ろうとすると、父は鬼のような顔でカメラを睨みつける。
「撮るな」
怒鳴りつけるように言うと、スタッフを追い出した。
ドアの向こうからは、娘を殴打する音と、「お父さんやめて」と懇願する声が響いている。やがて、その声も悲鳴に変わり……
試写の場面はここで変わる。
畳の一画には血のしずくがポタポタとこぼれ落ちている。
鼻血をすすり上げながら味噌汁をすする長女の姿。
何事もなかったかのように夕食を囲んでいる大家族。
父親は穏やかな表情で、
「やっぱり家族は、みんな一緒が一番いいな」
どうやら異変はこの夜だけであったようだが、当然、問題の場面は放送されなかった。
のちに長江氏は、こうしたドキュメンタリー映像の持つ迫力からインスパイアされて、ドラマとドキュメンタリーを融合した「フェイクドキュメンタリー」の着想を得る。そうして生まれたのが、今や伝説の番組となっている『放送禁止』シリーズなのである。