我、「藤井聡太」にかく敗北せり――14歳の天才に敗れた14人の棋士インタビュー

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■オヤジギャグへの対応

 その一方で、邪念がないからだろうか、相手のこともよく見えているという。

 複数の棋士が、彼は離席する時、必ず「失礼します」、戻る時も「失礼しました」との声かけを忘れないと言うし、胡坐(あぐら)をかく時も「失礼します」と言った、などの証言もあるから、ますます心のゆとりを感じてしまう。

「とにかく驚いたのは、あの年齢でとっても礼儀正しいことです」

 とは、加藤一二三(ひふみ)・九段(77)。1戦目の対局相手にして、史上最年長棋士。先頃引退した「ひふみん」その人である。

「午後の3時頃でしょうか、私はいつものようにお腹がすいて、おやつにチーズを食べたんです。そうしたら、彼はそれを見てからチョコを食べ始めた。つまり、大先輩の私が食べるのを待っていたんですね。これには大変感心しました」

 単なる偶然かもしれないが、必然と思わせるところがさすがだ。

「しかも後日、テレビのインタビューで、私がチーズを食べたのが“可愛らしかった”と言っていた。プロ入り初めての対局だったのに、それだけ余裕があったということなんですね」

 豊川孝弘七段(50)は、棋力もさることながら、「オヤジギャグ」で知られる。大盤解説などでしばしばダジャレを連発し、爆笑と失笑を誘っているが、藤井四段の2局目に敗北を喫した後の感想戦で、試しにそれをやってみたのだという。

「確か、何か納得できることを彼が指摘した時だったと思う。“ああ藤井、そうた(=聡太)ったのか!”と言ってみたんです」

 たわいもないギャグであるが、相手は斯界の大先輩。きちんとした対応が求められる。

「そしたら、彼はクスッと笑いました。まだ子どもらしい一面があるんだな、と思いましたよ」

 苦笑いだったのかもしれないが、思わぬ「盤外戦」に対応する辺り、14歳らしからぬ素振りを見せるのだ。

特集「新記録達成!『14歳の天才』に敗れた『14人の棋士』インタビュー 我、『藤井聡太』にかく敗北せり」より

週刊新潮 2017年7月6日号掲載

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