「出光興産」創業家vs.経営陣の泥沼化 昭和シェルとの合併めぐり

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水と油

 知られているように、出光は百田尚樹氏の小説『海賊とよばれた男』のモデルとなった出光佐三が創業し、組合も定年もないという独特な社風の会社だ。2006年10月までは非上場企業だった。現在は佐三の長男の昭介氏(89)や、昭介氏の2人の息子、資産管理会社の日章興産や出光美術館などの持分を合わせると、創業家が株の33・92%を握っている。合併には、3分の2以上の株主の賛成が必要だから、創業家の協力なしに経営統合は出来ない。

 経営陣が最初に経営統合を昭介氏に打診したのは15年7月。軽井沢の役員寮で、副社長と総務部長が昭介氏に会い、口頭で了解を取り付けたという(註・創業家側は、当時は耳が遠くて話がよく聞こえなかったと主張している)。

 これを受けて出光は経営統合を発表するが、年末になって事態は一変する。創業家の代理人弁護士として登場した浜田卓二郎氏(元代議士)が昭介氏との連名で、合併に懸念する旨の文書を月岡隆社長に送付。さらに、昨年6月の株主総会で浜田弁護士が正式に合併反対を表明したことで対立は決定的になる。

 創業家の反対理由は、昭和シェルが外国資本であるということ。また、同社には先鋭的な労働組合もあること。社風も両極端にある企業同士が合併しても多大な困難と時間を費やすだけで、うまくいくはずがないというものだ。

 合併・規模拡大によって業界での生き残りを図る経営陣とは、水と油の考え方である。両者のバトルは激化し、昭和シェル株の買収をめぐって露骨な妨害も起きた。

「出光の役員室は本社の8階にあり、昭介氏は9階の出光美術館にいますから、幹部とは今でもよく顔を合わせるわけです。対立はしていますが、冗談も言うし穏やかな性格で知られる昭介氏を慕う者は今も少なくありません。もちろん、昭和シェルの話題は避けますが、エレベーターで乗り合わせると何とも言えない空気になるのです」(出光社員)

 かつての部下たちと対立する昭介氏の心中を推し量ることは難しい。だが水面下では、経営陣と創業家側が本音をさらけ出した交渉を行っていた。

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