日本会議の影響力をデータベースで検証してわかった意外なこと 「フェイクニュース」をどう見破るか
■「政治の右傾化」は日本会議のせい?
安倍総理
保守系政治団体「日本会議」と政権とのかかわりが取り沙汰される機会が、昨年あたりから急に増えた。一つのきっかけは、菅野完著『日本会議の研究』がベストセラーになったことだろう。また、森友学園の籠池泰典前理事長がかつてメンバーだったことや、この問題追及の急先鋒として菅野氏が活躍したことも、「日本会議」への注目度を集めるのに一役買ったようだ。
団体への見方はさまざまだが、一つの典型は、以下のようなものだろう。
「日本会議は安倍政権の政策決定に重大な影響力を持っている」
「政治の右傾化の原因は日本会議である」
こうした見方は雑誌やネットなどでも頻繁に見る。
実際のところ、どうなのかを検証してみよう。そう考えたのは、フリー記者の烏賀陽弘道氏である。烏賀陽氏が新著『フェイクニュースの見分け方』で示した検証の結果を見てみよう(以下、同書より引用・抜粋)
まず烏賀陽氏は関連の書籍を読み、それらの筆者の講演会があれば聞きに行った。読んだ本は、以下の通りである。
・菅野完『日本会議の研究』(扶桑社新書)
・青木理『日本会議の正体』(平凡社新書)
・山崎雅弘『日本会議 戦前回帰への情念』(集英社新書)
・上杉聰『日本会議とは何か 『憲法改正』に突き進むカルト集団』(合同出版)
・成澤宗男編・著『日本会議と神社本庁』(金曜日)
・俵義文『日本会議の全貌 知られざる巨大組織の実態』(花伝社)
これらの本からは、烏賀陽氏は「日本会議が安倍政権の政策決定に重大な影響力を持っている団体」という説にうなずくような事実は見いだせなかった、それは、記者としての経験から、次のようなことを知っていたからだ、という。
「(1)日本会議と安倍総理の政治目標が似ていても、保守的政治団体と保守的政治家が別個にいて、たまたま掲げる目標や理念が似た、一致したという可能性もある。保守系の政治団体は多数あり、掲げる政治目標はだいたいどこも似ている。保守系政治家の掲げる政治目標もそれに似ている。
(2)国会議員が加盟する議員連盟は無数にある。「和装振興議員連盟」(旧きもの議員連盟)「オートバイ議員連盟」「囲碁文化振興議員連盟」「こんにゃく対策議員連盟」等々。議員は票やカネになるなら、どこにでも加盟する。安倍内閣・自民党の政治家が多数日本会議系の団体に加盟しているからといって、それだけで「日本会議は安倍政権の政策決定に重大な影響力を持っている」と結論付けることはできない」
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データベースで調べてみたら
烏賀陽氏は、両者の密接な関係を示すには、たとえば、次のような事実を示す必要がある、と指摘する。
「(A)安倍内閣が実行した政策の決定過程で、日本会議の人物Pまたはその周辺Qが、安倍内閣または自民党の関係者RとY年M月D日に場所Xで会って(あるいは電話やメールをやりとりして)Vを話し合い、その結果が政策Zになって姿を現した。
(B)安倍内閣の関係者Pに日本会議の人物Qが資金を提供した。選挙でYという形の応援をした。あるいは何らかの便宜や利益を提供した」
ところが、6冊の本にはそういう事実は出てこない。
そこで、烏賀陽氏は「最小限の労力でできる公開情報の調査」として、「首相動静」に「日本会議」がどのくらい出てくるかを朝日新聞のデータベースをもとに検索してみた
すると、驚くべきことに、過去10年間でたったの2回だけだった。
「2016年3月14日付朝刊
【午前】(略)【午後】0時6分、党大会懇親会。55分、参院選立候補予定者に公認証交付。1時37分、日本会議地方議員連盟の会合に出席。2時18分、東京・富ケ谷の自宅。6時15分、東京・虎ノ門のホテルオークラ別館。母親の洋子さんの「聖マウリツィオ・ラザロ騎士団」の受勲式に出席。9時16分、自宅。
2006年11月14日付朝刊
【午前】(略)【午後】0時5分、政府・与党連絡会議。(略)4時51分、日本会議国会議員懇談会の平沼赳夫会長ら。59分、国会。5時2分、党役員会。26分、官邸。6時、小池首相補佐官。49分、公邸。塩崎長官や武見敬三厚労省副大臣ら各省副大臣と会食。8時34分、東京・富ケ谷の自宅。」
念のため読売新聞でクロスチェックをしても同じ。安倍総理が日本会議のために使った時間は最大に見積もっても合計49分だったのだ。
その感想を烏賀陽氏はこう述べている。
「拍子抜けした。日本会議は『安倍政権を支える極右組織』(『日本会議の全貌』)らしいのだが、それにしては10年間で49分しか(しかも1回は第一次安倍内閣時代)時間を割かないというのは解せない。『聖マウリツィオ・ラザロ騎士団の受勲式』のほうが割いた時間が長い。この騎士団が安倍内閣や自民党に深い影響力があるという話は聞かない」
もちろん、首相動静だけで首相の交友関係を推し量ることはできないし、そこに現れない秘密の会合だってないとはいえない。しかし、少なくともこのような検証すら、多くの論者が行なった形跡がない点は問題ではないだろうか。
■事実に基づかないものは不発弾に終わる
烏賀陽氏はこう語る。
「私自身は、個人的には安倍政権や日本会議の掲げる政治目標にはほとんど賛同できません。しかし、彼らを批判するにしても、事実を根拠としなければ、批判されるほうが痛くもかゆくもないのです。相手は『どうぞご自由に』となるだけです。6冊の本の中で、首相動静を検証したものは見当たりませんでした。
かりに秘密の会合を開いているとすれば、それを見つけなければいけないでしょう。
政権や権力をあらゆる角度から精査、チェックするのは必要です。しかし事実に基づかない『検証』『暴露』をしても、それは単なる不発弾にしかなりません。
むしろ、『こんな事実に基づかないものが報道なのか?』と社会の不信感を募らせるだけ有害ではないでしょうか」
実際に、「日本会議黒幕説」は、一定程度浸透したとはいえ、政権に打撃を与えられているとは言い難い状況である。むろん「不発弾」も一定の脅威にはなるのだろうが、効果は限定的なのかもしれない。